意外にも振り絞った勇気
文字数 664文字
多賀が後ろ手に閉めていった自習室の引き戸を眺めていた井原は、僕に向き直ると、戸惑い気味に尋ねた。
いきなり二人きりにされても、何から話していいのか分からない。確かにチャンスといえばそうなんだけど、本題に入るまでの間がもたない。
むしろ、井原のほうが落ち着いていた。
思い切って、ようやくそれだけ口にすることができた。あとの思いは重すぎて、口から出てこなかった。
だが、その重さだけは井原に伝わったらしい。
おろおろと言葉を選びながら、しどろもどろに話す。何とかなだめようと思ったが、月並みな言葉しか出てこないのが恨めしかった。
悪気はないんだろうけど、本音としてはひどい。でも、それがポロリと出たのが妙におかしくて、僕はクスっと笑いながら答えた。