男たちの抱えた秘密
文字数 896文字
いきなり出た気になる名前に、超……警戒する。
多賀は説明抜きで、ずけずけと人の心の中に踏み込んでくる。
風間へのネガティブな文脈を無視した言い訳がましい反論を、多賀は逆にポジティブな言い方で聞き流した。
構うことなく、僕も一方的にまくし立てる。
さすがに多賀も閉口したようだが、一度始めた演説はもう、止められなかった。
確かに井原は小柄だし、実験中でも時々いるのかいないのか分からなくなるくらい物静かな女子だし、でも、ちゃんといるんだよ、てきぱきとメモ取ったり、ビーカーとか試験管じーっと見て、色鉛筆使って化学反応スケッチしたり、試薬の壜を開けたり閉めたり……。
諦めの響きは感じられたが、僕自身の妄想も割と膨らんでいた。
そんな皮肉は既に、通じなくなっている。
頭の中に広がる、優しい光に包まれた井原佐紀のイメージ……
……それを、多賀の突きつける現実が一瞬で粉砕する。
負けるまいとして、僕は心の奥底に潜む不安を抑え込みにかかった。
もともと、多賀もそういう意味で話していたのだが。
罵詈雑言の奔流を、自分でも止められないで持て余す。
だが、それは思わぬ罵声でせき止められた。
声デカいつってんだろ!