隠れセクシー系…情報処理部長の場合

文字数 1,127文字

 高2の冬休み……つまりクリスマスと年越しと正月という和洋とりまぜた大イベントのひしめき合う夢のゴールを目前にした、12月初めの夕方のことだった。


……。
……。
……。

 僕たち3人は、心弾ませながら放課後を楽しむこともなく、高校の5階にある自習室にいた。

 教室の端から無秩序なアメーバ状に寄せ集められた机。

 そこに向かって座る目の前には、配線も乱雑なノートパソコンと増設ハードディスクとプリンターがひしめき合っている。

 その端末の一つに向かう奏野弓(そうの ゆみ)は、液晶画面から目を離すことなく、凄まじい速さでキーボードを叩きながら不愛想に尋ねてきた。

ねえ勝昭(かつあき)、そっちできた?
呼び捨てかよ。

 慣れないキーボード操作なんだから、急かされても困る。イライラしながら突慳貪にはねつけると、奏野は鼻にかかった声で出るとこ出た上半身をくねらせた。

 もちろん、顔と目と手の位置は変わらない。

遠田くうん、まだあ?
う……。

 白状すると、ちょっとゾクっときたりする。そういうキャラじゃないつもりだけど、これでも男だ。仕方が無い、と開き直ってはみるけど、邪な心を見抜いたかのように、奏野の声は厳しかった。

 

遠田?
もうちょっと……。
遅えよ。
 この、上から目線の物言いはムカつく。僕のキータッチも遅いのだが、ノートパソコンの型も古くて、漢字変換というか処理がとにかく遅いのだ。そのいらだちもあって、つい声を荒らげて言い返してしまった。
トロいんだよ、パソコンが!
マシンのせいにすんな。
ちょっと見てよ!
 パソコンに強い奏野なら何とかしてくれると思ったのだが、見事にはねつけられた。
悪いけどこっちも手一杯!
 その冷淡さに、奏野にすがっても無駄だと悟った僕は、ついパソコンに当たり散らしていた。
メモリ入ってんのかこれ!
 その瞬間、奏野の声は一気にヒートアップした。悪さをした子どもを叱りつけたら、逆に親に逆上されたときみたいに。
ああ? ウチのノーパー(ノートパソコン)に何か文句あんのか?
ないです……。

 奏野は情報処理部の部長だが、クラスでは別の顔がある。クラスの女子の中でも裏のボスで、何か言いだしたら男女ともに逆らえる者はほとんどいない。

だったら口動かさずに手動かす!
そう言う奏野は……。
 反論は愚策中の愚策だった。部活での愛機をコケにする者には、部員だろうがカタギの帰宅部員だろうが、分け隔てなく相応の代価を支払わせるのが奏野だ。
見たら分かるだろ!
 口とは別に両手の指が、乱射される機関銃の弾丸を思わせる速さで、キーボード狭しと叩きこまれる。そのすらっとした手足でビンタや蹴りを食らったら、さぞかし痛いだろう。
速っ……。
情報処理部! 部長! 奏野弓! なめんなああああ!
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登場人物紹介

遠田勝昭(とおだ かつあき)


自他ともに認める高校2年の優等生。内気でシニカルな割に、感情に任せて突拍子もない行動を取ることがある。ちょっとムッツリスケベ。

奏野弓(そうのゆみ)


 一見クールだが、脳に回る栄養までプロポーションに吸い取られた感のある高2女子。ワープロ操作が異様に早い情報処理部部長。正義感は強いが責任は取らないクラスの裏ボス。

多賀久平(たが きゅうへい)


 思考もスタイルもスマートな高校2年男子。合理主義者で必要なことしか言わないし、やらないが、仕事は早い。女性への観察も鋭いが、そっち方面はストイック。

井原佐紀(いはら さき)


 小柄で、実験中でも時々いるのかいないのか分からなくなるくらい物静かな高校2年の女の子。几帳面な化学部部長。頭は切れるがそれを表には出さず、困っている人を人知れずフォローするのに生かす、心優しく奥ゆかしい少女。

風間邦衛(かざま くにえ)


 人はいいが動作もカンも鈍い巨漢。高校2年生。訥弁でコミュニケーション能力に乏しく、付き合うには忍耐を必要とする。

新島真由(にいしま まゆ)


スタイル抜群で顔も可愛い高校2年生女子。性格のねじ曲がった女子グループのボス。自分以上に可愛く、男子にモテる女子をいびるためなら、肉体的・精神的にどれほどの労力も厭わないサディスト。

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