無意味なやりとり……課題はもう出したかな?

文字数 827文字

……何見てんだ勝昭。

 ギっクうううう……! 

 いや、奏野のほうは見てない。己への戒めとして、とにかくグラウンドを見ていた。何もない、冷たい風が吹きすさんでいるであろう無人のグラウンドを。

 だが、いくら後ろ暗いところはなくても、ここは落ち着いて弁明するしかない。

……いや、グラウンドの向こうの、あのトイレ。

 それ自体に嘘はない。実際に気になっていたのだ。

 何でトイレのドアが、あんなふうに塞がれているのか。

バリケード……掃除ロッカーか、あれ。
あ、ああ、故障でもしたのかな。

 なんとか話をこっちに逸らさないと……。

 僕の白々しい返事に事情を察したのかどうかは分からないけど、多賀がパソコンに向かいながら不愛想にツッコんだ。

今日は使わないからいいだろ、部活もないし。
何だよ。
 明らかに皮肉のこもった言葉に、気の強い奏野は即座に反応する。すると、多賀の口調はいささか、からかいの響きを帯びた。
それをいいことにこうやって……。
 こんなことしてる場合か、自分の分はいいのか、という意味に取れた。奏野も同じことを感じたらしく、不機嫌に言葉を返した。
アタシはレポート出したからな、期末中に。
 すると、今度は僕が槍玉に挙げられた。
遠田は他人のレポート偽造してる暇があるのか?

 その声音は、奏野に対するものよりも優しい。お前はそんなことないよな、というニュアンスが感じられる。

 僕も自信たっぷりに答えた。

期末の前の週に出した。
さっすが優等生。
 それは僕に対する賞賛というよりも、奏野に対する嫌味だ。多賀との口論に巻き込まれるのはイヤだったから、そこは言い訳がましく謙遜する。
 いや、ノートかレポート出さないと評定1だし、僕のノートぐちゃぐちゃだし、レポートにするんなら、さっさとやってテスト勉強しないと……。
 でも、無駄な努力だった。この誇り高い眼鏡娘がキーを叩きながら口から吐き散らす義憤の炎に晒されたのは、口喧嘩の火蓋を切った多賀じゃなくて、側杖を食った僕のほうだった。
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登場人物紹介

遠田勝昭(とおだ かつあき)


自他ともに認める高校2年の優等生。内気でシニカルな割に、感情に任せて突拍子もない行動を取ることがある。ちょっとムッツリスケベ。

奏野弓(そうのゆみ)


 一見クールだが、脳に回る栄養までプロポーションに吸い取られた感のある高2女子。ワープロ操作が異様に早い情報処理部部長。正義感は強いが責任は取らないクラスの裏ボス。

多賀久平(たが きゅうへい)


 思考もスタイルもスマートな高校2年男子。合理主義者で必要なことしか言わないし、やらないが、仕事は早い。女性への観察も鋭いが、そっち方面はストイック。

井原佐紀(いはら さき)


 小柄で、実験中でも時々いるのかいないのか分からなくなるくらい物静かな高校2年の女の子。几帳面な化学部部長。頭は切れるがそれを表には出さず、困っている人を人知れずフォローするのに生かす、心優しく奥ゆかしい少女。

風間邦衛(かざま くにえ)


 人はいいが動作もカンも鈍い巨漢。高校2年生。訥弁でコミュニケーション能力に乏しく、付き合うには忍耐を必要とする。

新島真由(にいしま まゆ)


スタイル抜群で顔も可愛い高校2年生女子。性格のねじ曲がった女子グループのボス。自分以上に可愛く、男子にモテる女子をいびるためなら、肉体的・精神的にどれほどの労力も厭わないサディスト。

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