無意味なやりとり……課題はもう出したかな?
文字数 827文字
ギっクうううう……!
いや、奏野のほうは見てない。己への戒めとして、とにかくグラウンドを見ていた。何もない、冷たい風が吹きすさんでいるであろう無人のグラウンドを。
だが、いくら後ろ暗いところはなくても、ここは落ち着いて弁明するしかない。
それ自体に嘘はない。実際に気になっていたのだ。
何でトイレのドアが、あんなふうに塞がれているのか。
なんとか話をこっちに逸らさないと……。
僕の白々しい返事に事情を察したのかどうかは分からないけど、多賀がパソコンに向かいながら不愛想にツッコんだ。
明らかに皮肉のこもった言葉に、気の強い奏野は即座に反応する。すると、多賀の口調はいささか、からかいの響きを帯びた。
こんなことしてる場合か、自分の分はいいのか、という意味に取れた。奏野も同じことを感じたらしく、不機嫌に言葉を返した。
その声音は、奏野に対するものよりも優しい。お前はそんなことないよな、というニュアンスが感じられる。
僕も自信たっぷりに答えた。
それは僕に対する賞賛というよりも、奏野に対する嫌味だ。多賀との口論に巻き込まれるのはイヤだったから、そこは言い訳がましく謙遜する。
いや、ノートかレポート出さないと評定1だし、僕のノートぐちゃぐちゃだし、レポートにするんなら、さっさとやってテスト勉強しないと……。
でも、無駄な努力だった。この誇り高い眼鏡娘がキーを叩きながら口から吐き散らす義憤の炎に晒されたのは、口喧嘩の火蓋を切った多賀じゃなくて、側杖を食った僕のほうだった。
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