悪女去ってのまた一難
文字数 806文字
乱れた前髪をかき上げる仕草は、意外に色っぽかった。日ごろのガサツさからは、とても想像できない。
その妄想を払いのけようという気持ちもあって、僕はパソコンを打ちながら尋ねてみた。
答えようがない。
さすが、というべきか。人の嫌がるポイントを的確に突いてくる。
そこは、多賀も感じたらしい。
驚いた。多賀でも知らないことを……女子には女子の情報網があるらしい。今聞いても仕方ないことだが、それはそれで興味を引かれた。
奏野は素っ気なく答えて、またパソコンに戻った。再び、凄まじい勢いでキーを叩きはじめる。
僕の感じたことは、多賀がこっちを見もしないで述べてくれた。
非難とも褒め言葉ともつかない指摘をごまかすかのように、奏野はキーを打つ手を止めて立ち上がると、グラウンド側の窓の外を眺めた。僕も気になって駆け寄る。
多賀は椅子の背もたれに身体を投げ出す。奏野が窓枠を掴んだ手に、静脈が薄黒く浮かんだ。