意外な一言

文字数 423文字

 怯えたように一歩退いていた井原が、恐る恐る尋ねた。
で、何?
 奏野は答えない。
ほらほらモタモタすんな、あっちのノートパソコンはお前持って、こっちのプリンターはこっちの奴らが持って……。

 撤収の指図に余念がないが、自分はというと、豊かな胸の下で腕組みしたまま、何もしない。

 代わりに多賀が聞き返した。

ああ……と……でも井原さん、どうして相談する気になったの? 先生に。
多賀、おまえそれは……
 一分一秒を争う撤収作業の最中とはいえ、これは聞き流せなかったらしい。
そ、そうそう、それは……。

 井原ひとりの戦いだったのだ。心の中にしまっておく権利も、井原ひとりにある。

 でも、そこでその井原が、意外な一言を口にした。


風間君がメールくれたの、勇気出して学校に来いって。
 その井原を救うために、全ての生徒が帰ってしまった学校で、午後いっぱい自習室に詰めていた僕たち3人は、同時に絶句した。
え……。
え……。
え……。
 部屋いっぱいに飛び交う「?」マーク……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

遠田勝昭(とおだ かつあき)


自他ともに認める高校2年の優等生。内気でシニカルな割に、感情に任せて突拍子もない行動を取ることがある。ちょっとムッツリスケベ。

奏野弓(そうのゆみ)


 一見クールだが、脳に回る栄養までプロポーションに吸い取られた感のある高2女子。ワープロ操作が異様に早い情報処理部部長。正義感は強いが責任は取らないクラスの裏ボス。

多賀久平(たが きゅうへい)


 思考もスタイルもスマートな高校2年男子。合理主義者で必要なことしか言わないし、やらないが、仕事は早い。女性への観察も鋭いが、そっち方面はストイック。

井原佐紀(いはら さき)


 小柄で、実験中でも時々いるのかいないのか分からなくなるくらい物静かな高校2年の女の子。几帳面な化学部部長。頭は切れるがそれを表には出さず、困っている人を人知れずフォローするのに生かす、心優しく奥ゆかしい少女。

風間邦衛(かざま くにえ)


 人はいいが動作もカンも鈍い巨漢。高校2年生。訥弁でコミュニケーション能力に乏しく、付き合うには忍耐を必要とする。

新島真由(にいしま まゆ)


スタイル抜群で顔も可愛い高校2年生女子。性格のねじ曲がった女子グループのボス。自分以上に可愛く、男子にモテる女子をいびるためなら、肉体的・精神的にどれほどの労力も厭わないサディスト。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色