窓の前で息をひそめる
文字数 711文字
窓際に身を沈めた奏野は、背中を丸めて下を眺めていた。
僕もそのすぐ隣で同じものを同じように見てつぶやいた。長い髪のすらっとした女子が、体育倉庫の辺りをうろうろしては、屋根を見上げている。
レポートの捏造に励む多賀の制止など、もう耳には入らなかった。つい、窓から身を乗り出して叫びそうになる。
奏野が僕の頭を押さえ込んだとき、あの柔らかいものが頬に当たった。
甲高い悲鳴が上がる前に、作業中の多賀が低いつぶやきで絶対の危機を告げた。
奏野は深く息をつくと、沈んだ声で僕の耳元に囁いた。
奏野のまなざしを至近距離で感じてドキっとしたけど、うろたえている暇はなかった。多賀が淡々と、しかしはっきりと、井原のためのレポート捏造を促したからだ。
そこは認めざるを得なかった。すぐそばで奏野が、らしからぬ情けない声を出す。
僕はきっぱりと言い切った。奏野がためらいがちに頷く。
多賀もフォローしたつもりなんだろうが、できもしないことを並べ立てても仕方がない。