窓の下で胸に顔を埋める

文字数 737文字

 だったらやっぱり、やることは、ひとつしかない。ムチャクチャだけど、これがいちばん確実なのだ。

僕、行くからね。
 窓枠に足をかけると、奏野は僕の腕を掴んで引き戻した。
ダメだっつってんだろ!
 力任せに引っ張った手が、もろに柔らかい膨らみへと押し当てられている。
ちょっと、胸が、胸が……。

 自己申告したのには、ワケがある。こう言えば、絶対に慌てて手を離すと思ったのだ。

 でも、奏野は悲鳴も上げなければ、見かけよりも更にある胸を両手で覆うこともなかった。

そんなん知るかああああ!
むぐふうっ!
 引き戻された僕は、奏野ともつれ合ったまま、胸の谷間に顔を埋める形で床に転がった。
久平、あと何分?

 僕なんか問題にもされない。多賀はキーを乱打しながら、ディスプレイ上を眺めている。そこに浮かぶデジタル表示を確かめているんだろう。

 

あと5秒、4、3、2、1……。
 奏野が僕を身体の上に乗せたまま、熱い息をついた。
時間切れ……。

 終わった。何もかも。

 奏野のレポートは提出されず、力になれなかった僕は告白の機会を諦めるしかない。

 できることは、提出物偽造の証拠を残さないことだけだ。

一蓮托生!

 無理に明るく声を上げて、僕は何事もなかったかのように起き上がろうとした。

 僕を見上げる奏野と、目が合う。

……。
あ……。

 身体が硬直する。その瞬間、ドアが開く音がした。

 奏野は僕を床の上に蹴たぐり倒すと、床から跳ね起きて、乾いた笑い声を立てた。

た……たったたったたた、タクシー1円って、や、や、安すぎんだろ……。
 多賀も声を震わせながら、その場を取り繕う。
い、いや、そんな時代があったんだよ……まあ、いいじゃない、か?

 やむを得ない。

 傍目からは誰が見たって、僕と奏野の不純異性交遊の現場だったんだから。

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登場人物紹介

遠田勝昭(とおだ かつあき)


自他ともに認める高校2年の優等生。内気でシニカルな割に、感情に任せて突拍子もない行動を取ることがある。ちょっとムッツリスケベ。

奏野弓(そうのゆみ)


 一見クールだが、脳に回る栄養までプロポーションに吸い取られた感のある高2女子。ワープロ操作が異様に早い情報処理部部長。正義感は強いが責任は取らないクラスの裏ボス。

多賀久平(たが きゅうへい)


 思考もスタイルもスマートな高校2年男子。合理主義者で必要なことしか言わないし、やらないが、仕事は早い。女性への観察も鋭いが、そっち方面はストイック。

井原佐紀(いはら さき)


 小柄で、実験中でも時々いるのかいないのか分からなくなるくらい物静かな高校2年の女の子。几帳面な化学部部長。頭は切れるがそれを表には出さず、困っている人を人知れずフォローするのに生かす、心優しく奥ゆかしい少女。

風間邦衛(かざま くにえ)


 人はいいが動作もカンも鈍い巨漢。高校2年生。訥弁でコミュニケーション能力に乏しく、付き合うには忍耐を必要とする。

新島真由(にいしま まゆ)


スタイル抜群で顔も可愛い高校2年生女子。性格のねじ曲がった女子グループのボス。自分以上に可愛く、男子にモテる女子をいびるためなら、肉体的・精神的にどれほどの労力も厭わないサディスト。

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