彼らが抱えるささやかなディスコミュニケーション

文字数 613文字

謀(はかりごと)は密なるを尊(たっと)ぶっていうしね。
……?

 はっきり言ってしまえば、奏野の成績は悪い。特に国語が。

 悪態はポンポン出るくせに、意外とボキャブラリーが少ないのだ。

 そんなわけで、古語と古典文法のナリ活用形容動詞を含む諺が、奏野に理解できる可能性は低い。

いいよ、意味分かんなくても。
バ……バカにすんな。

 奏野も学力不足を認めて開き直ってしまえば楽なんだろうけど、それができる性分じゃないのは普段を見ていれば分かる。

 多賀も多賀で、それを知ってか知らずか、奏野の怒りを煽り立てる。

じゃあ、どういう意味?
はかりは……ハカリ……そうそう、秤(はかり)は……。
 余裕たっぷりの多賀にたいして、奏野は明らかに追い詰められている。気の毒といえば気の毒だった。
無理しなくていい。
うるさい、みつ……ミツ……蜂蜜をだな。
 発すべき言葉に迷いながらも、奏野はキーを叩く手を止めない。多賀は褒めているのかけなしているのかよく分からないコメントを口にした。
それでもタイピングできる辺りが奏野だな。
それでも……ってどういう意味だ。

 ここはネガティブな意味に取るのが普通だろう。意地の強い奏野なら、なおさらだ。

 よせばいいのに、多賀はさらに攻勢を強める。

じゃあ、尊ぶって?
たっ……と……飛ぶんだよ、飛ぶ、ハチミツ……蜜蜂が
 よせばいいのに、奏野はなおも強がって知ったかぶる。もちろん、その間にもタイピングするしなやかな指は止まることがない。
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登場人物紹介

遠田勝昭(とおだ かつあき)


自他ともに認める高校2年の優等生。内気でシニカルな割に、感情に任せて突拍子もない行動を取ることがある。ちょっとムッツリスケベ。

奏野弓(そうのゆみ)


 一見クールだが、脳に回る栄養までプロポーションに吸い取られた感のある高2女子。ワープロ操作が異様に早い情報処理部部長。正義感は強いが責任は取らないクラスの裏ボス。

多賀久平(たが きゅうへい)


 思考もスタイルもスマートな高校2年男子。合理主義者で必要なことしか言わないし、やらないが、仕事は早い。女性への観察も鋭いが、そっち方面はストイック。

井原佐紀(いはら さき)


 小柄で、実験中でも時々いるのかいないのか分からなくなるくらい物静かな高校2年の女の子。几帳面な化学部部長。頭は切れるがそれを表には出さず、困っている人を人知れずフォローするのに生かす、心優しく奥ゆかしい少女。

風間邦衛(かざま くにえ)


 人はいいが動作もカンも鈍い巨漢。高校2年生。訥弁でコミュニケーション能力に乏しく、付き合うには忍耐を必要とする。

新島真由(にいしま まゆ)


スタイル抜群で顔も可愛い高校2年生女子。性格のねじ曲がった女子グループのボス。自分以上に可愛く、男子にモテる女子をいびるためなら、肉体的・精神的にどれほどの労力も厭わないサディスト。

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