彼らが抱える各々の思い
文字数 386文字
怒りが咆哮させるのか、咆哮が怒りを引き出すのか、そこのところは判別しかねる。ただ分かるのは、奏野が怒りの全てをキーボードに叩きつけていることだった。
作業を最優先して短い言葉でたしなめた多賀に、奏野は一言たりとも食ってかかることがない。今、非難の槍玉に上がっているのが、この場に居て然るべきなのに姿も見せない風間邦衛(風間 くにえ)だったからである。
化学部部長の井原が、レポート並みの精密さを誇るノートを出せなくなったのにはわけがある。何者かに盗まれてしまったのだ。学校に来られなくなってしまったのは、それがショックだったからだ。
悪気のない一言だったけど、カチンときた。思わずキーを叩く手が止まる。