第23話 王宮のゲストルーム

文字数 1,283文字

 王宮のゲストルームに呼び出され、『女神様の祝福を得る儀式』が終わるまでは王宮内に留まるように言われてしまった。

 お店の方は、ボブとベンが何とかしてくれているだろうか? それとも、お役御免とばかりに元の仕事に戻っているのだろうか。クレアも下働きの女性たちも王宮に戻ってる?
 せっかく、顧客も付き始めたところだというのに。

 何より、聖女として祝福を受けてしまったら、私はこの王宮から外に出られるのかしら。

「メグ。深刻な顔をしてないで、少し座ったらどうだ?」
 早々とソファーに座ってしまったダグラスが、そう言ってくる。

「落ち着いているのね、ダグラス」
「いろいろ考えても仕方ないだろう? 儀式が終わるまでは何もわからないのだし」
 ダグラスの、妙に落ち着いた態度にも不信感を覚える。だって……。
「ダグラスも、女王陛下側の人間なのだわ。正式に騎士の誓いもして、忠誠も誓ったのでしょう?」

 ダグラスは、呆れたような目で私を見ている。
 私は前世を思い出し、ダグラスを見ていたくなくて目を逸らした。

「忠誠は誓ったさ。だから何だって言うんだ」
「私が聖女だったら、さっさと王族に引き渡すのだわ」
「はぁ? 引き渡すわけないだろう? お前が、望まないのに」
「ほら、またお前って言った。だいたいあなたはいつもそう。
 自分の都合の良いように、私を使って……。自分の立場を有利に持っていこうと」

「いい加減にしないか」
 ダグラスから、怒鳴られる。私の身体は、ビクッとなった。

 初めてだった、怒鳴られたのなんて。前世の実さんは、物静かで私が何をしても、何を言っても知らない顔をしていた。先ほどの様に、時々呆れた顔で私を見る以外は。

「ここは王宮の中なんだぞ」
 その言葉に私はハッとなる。誰も居なくても、誰が聞いているかわからない。
 それが王宮というところだ。

「メグ。明日からの(みそぎ)や儀式が不安なのはわかるけど、ここは()()()()()をして良い場所じゃない。わかるな」

 ダグラスは、やけにはっきり大きな声で言っている。
 俺に話を合わせろと。
 儀式の後の事では無く。儀式自体が不安という事にしろと。
 夫婦だと明言することで、同じ部屋にいても不自然じゃない状況を作れ……と。

 どうして分かってしまうのだろう……会いたくないとさえ思っていた夫なのに。

 私は、ススッとダグラスの身体に寄り添った。
 ダグラスも自然と私を抱きしめる。上から……と、多分壁にかかっている絵画のあたりからだと、キスをしているように見えるだろうか? ダグラスの顔が、私の顔に近付いてきた。
「誰と誰が夫婦なのよ」
 先ほどの聞き捨てならないダグラスの言葉に、私は不満を言った。
「すまん。だが、夫婦とでも言わないと部屋を別にされるだろ? そうされたら、守る事もできないからな」
「ちゃんと守ってくれるのでしょうね」
「そのために、俺はいるんだ」
 周りに聞こえないくらい、小声で私たちはボソボソと話し合った。
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