第42話 ルーブルシア王国側 デリックの陰謀 ウイリアムの策略
文字数 2,219文字
ウイリアムはルーブルシア王国の一室にいた。
正確に言えば、王族の生活エリア内の一室で軟禁状態になっている。
ちょうど、エミリーにウイリアムがしたのと同じ状態だ。
つまり、ウイリアムにまだ死なれては困ると言う事なのだろう。
やれやれ、とウイリアムはため息交じりに小声で言った。
ウイリアムはアイストルスト王国から帰国し、すぐその足で国王陛下に外交の報告に行った。
今回の外交は、なにもマーガレットの帰国を促すだけのものではない。
表向きは友好国として今後共に国の発展を目指すための外交。
アイストルスト王国からしてみればルーブルシア王国は、聖女召喚も失敗し、あまつさえ本物の聖女を国外追放してしまった愚かな、取るに足らない小国だ。
元公爵令嬢マーガレットの保護のお礼と、『聖女の両親がいる我が国を今後ともよろしくお願いします』という大変苦しい陳情じみた外交。だけど、どれだけ屈辱にまみれていても国を潰さないためには仕方のない外交 だった。
事が起きたのは、必要な報告も終わり、ウイリアムが自室でホッと一息ついたところだった。
いきなりドアが乱暴に開いて兵士たちがバラバラと慌ただしく入ってきた。そして、ソファーに座ってくつろいでいたウイリアムを拘束しようとする。
「無礼者。許可なく王の子に触れるか」
ウイリアムが一喝すると、兵士たちがひるんだ。
デリックとそれに寄り添うようにエミリーが部屋に入って来た。
「王の子?罪人 の分際でよくも言う」
「罪?」
「おかわいそうに、聖女様はお部屋に軟禁されてらしたよ。充分に罪に問えるだろう?」
そう言って、デリックはエミリーの方を優しい顔で見ている。
まるで、ウイリアムがマーガレットを断罪した時を再現してるように。
なるほど、茶番だ。
マーガレットがあの断罪の時に冷めた目をしていたはずだ。
何の思惑があるのだか……と、ウイリアムは思うが、エミリーは気付きもせずにうっとりデリックを見ている。
「エミリー、残念だよ。私はこれを恐れて国を離れている間、部屋にいてもらったのに」
ウイリアムは、力なくエミリーに微笑んで見せた。
「な……なによ。今さら」
エミリーがデリックにしがみつきながら言ってくる。
ウイリアムは、それに対し泣きそうな笑顔を作った。
「そう……今さらだね。私が恐れていたのはエミリー、君の心変わりだよ。デリックにいろいろ吹き込まれたのだろう?」
「何をしてる。さっさと連れていけ」
デリックは、ウイリアムの思惑に気付いたのか、焦って兵士をせかす。だけど、ウイリアムはその動きを手で制して自分で歩き出した。どうせ、この時点で牢には入れることはできない。
せいぜい逃げ出すことが出来ない王族専用の幽閉部屋だ。
兵に囲まれるようにしてデリックとエミリーの横を通る時、ウイリアムはエミリーの腕を引いて抱き寄せた。
「な……ウイリアム?」
「私はまだエミリーを愛してるよ」
抱き寄せたまま、エミリーの耳元でささやく。手には、ウイリアムが前もって書いていた紙 を握らせた。
「何をしてる。取り押さえて連れていけ」
デリックの命令で兵士がウイリアムを拘束しようと動く。
今度は、大人しく兵士たちに拘束をされてウイリアムは行ってしまった。
残されたエミリーは顔を赤くしている。乙女ゲームの主人公の様に誰も彼もがエミリーに夢中、そう勘違いしてもおかしくない状況になっていた。
部屋の外に出られないとはいえ、所詮は軟禁状態だ。
身体的な拘束は無いし、世話をしてくれる侍女も付く。
ウイリアムが書きものをしていたら、侍女が紅茶を入れてくれた。
「ありがとう、いつもすまないね。レティ」
「いえ。王太子殿下こそ、少しはお休みにならないと」
レティと呼ばれた女性、レティシア・ティンダルは頬を染めながら言う。
ウイリアムは、立ち上がり。レティの首筋に手を伸ばす。
「髪が乱れている」
そう言って、指で髪をちょちょいといじって整えた。
「ウイリアムと呼んでくれて良いのに」
そうウイリアムが耳元でささやくと、レティがピクンと反応した。
「そんな。お……恐れ多いです、殿下」
レティは、もうかわいそうなくらい顔が真っ赤になっている。
「どうして? 私の母は、レティと同じ子爵令嬢で王宮侍女だったよ。それに、ここには私とレティしかいないのに……」
ウイリアムは優しい眼差しで、レティを見ていた。
「ウイリアム様」
おずおずと言った感じで、レティが名前を呼ぶ。
「うん、それでいい。そのうち、様も外してくれないかな。私は罪人 だからね」
ウイリアムの手は首筋から、レティの頬に流れるように触れ、そして軽く口づけをしてからまた座り書類に目を通す素振りをした。
(さて、エミリーはちゃんと私のところに来てくれるかな)
あの紙 を、エミリーに渡したのは一種の賭けだった。幽閉さえされなければ、デリック側の侍女をこちら側に引き込んで渡すはずだった紙 。
エミリーは性格と言動に問題があるが、あれはあれで優秀だから動く気があるのなら何とかしてくれるだろう。
ウイリアムは、そう思いながらレティの入れてくれたお茶を飲んでいた。
正確に言えば、王族の生活エリア内の一室で軟禁状態になっている。
ちょうど、エミリーにウイリアムがしたのと同じ状態だ。
つまり、ウイリアムにまだ死なれては困ると言う事なのだろう。
やれやれ、とウイリアムはため息交じりに小声で言った。
ウイリアムはアイストルスト王国から帰国し、すぐその足で国王陛下に外交の報告に行った。
今回の外交は、なにもマーガレットの帰国を促すだけのものではない。
表向きは友好国として今後共に国の発展を目指すための外交。
アイストルスト王国からしてみればルーブルシア王国は、聖女召喚も失敗し、あまつさえ本物の聖女を国外追放してしまった愚かな、取るに足らない小国だ。
元公爵令嬢マーガレットの保護のお礼と、『聖女の両親がいる我が国を今後ともよろしくお願いします』という大変苦しい陳情じみた外交。だけど、どれだけ屈辱にまみれていても国を潰さないためには仕方のない
事が起きたのは、必要な報告も終わり、ウイリアムが自室でホッと一息ついたところだった。
いきなりドアが乱暴に開いて兵士たちがバラバラと慌ただしく入ってきた。そして、ソファーに座ってくつろいでいたウイリアムを拘束しようとする。
「無礼者。許可なく王の子に触れるか」
ウイリアムが一喝すると、兵士たちがひるんだ。
デリックとそれに寄り添うようにエミリーが部屋に入って来た。
「王の子?
「罪?」
「おかわいそうに、聖女様はお部屋に軟禁されてらしたよ。充分に罪に問えるだろう?」
そう言って、デリックはエミリーの方を優しい顔で見ている。
まるで、ウイリアムがマーガレットを断罪した時を再現してるように。
なるほど、茶番だ。
マーガレットがあの断罪の時に冷めた目をしていたはずだ。
何の思惑があるのだか……と、ウイリアムは思うが、エミリーは気付きもせずにうっとりデリックを見ている。
「エミリー、残念だよ。私はこれを恐れて国を離れている間、部屋にいてもらったのに」
ウイリアムは、力なくエミリーに微笑んで見せた。
「な……なによ。今さら」
エミリーがデリックにしがみつきながら言ってくる。
ウイリアムは、それに対し泣きそうな笑顔を作った。
「そう……今さらだね。私が恐れていたのはエミリー、君の心変わりだよ。デリックにいろいろ吹き込まれたのだろう?」
「何をしてる。さっさと連れていけ」
デリックは、ウイリアムの思惑に気付いたのか、焦って兵士をせかす。だけど、ウイリアムはその動きを手で制して自分で歩き出した。どうせ、この時点で牢には入れることはできない。
せいぜい逃げ出すことが出来ない王族専用の幽閉部屋だ。
兵に囲まれるようにしてデリックとエミリーの横を通る時、ウイリアムはエミリーの腕を引いて抱き寄せた。
「な……ウイリアム?」
「私はまだエミリーを愛してるよ」
抱き寄せたまま、エミリーの耳元でささやく。手には、ウイリアムが前もって書いていた
「何をしてる。取り押さえて連れていけ」
デリックの命令で兵士がウイリアムを拘束しようと動く。
今度は、大人しく兵士たちに拘束をされてウイリアムは行ってしまった。
残されたエミリーは顔を赤くしている。乙女ゲームの主人公の様に誰も彼もがエミリーに夢中、そう勘違いしてもおかしくない状況になっていた。
部屋の外に出られないとはいえ、所詮は軟禁状態だ。
身体的な拘束は無いし、世話をしてくれる侍女も付く。
ウイリアムが書きものをしていたら、侍女が紅茶を入れてくれた。
「ありがとう、いつもすまないね。レティ」
「いえ。王太子殿下こそ、少しはお休みにならないと」
レティと呼ばれた女性、レティシア・ティンダルは頬を染めながら言う。
ウイリアムは、立ち上がり。レティの首筋に手を伸ばす。
「髪が乱れている」
そう言って、指で髪をちょちょいといじって整えた。
「ウイリアムと呼んでくれて良いのに」
そうウイリアムが耳元でささやくと、レティがピクンと反応した。
「そんな。お……恐れ多いです、殿下」
レティは、もうかわいそうなくらい顔が真っ赤になっている。
「どうして? 私の母は、レティと同じ子爵令嬢で王宮侍女だったよ。それに、ここには私とレティしかいないのに……」
ウイリアムは優しい眼差しで、レティを見ていた。
「ウイリアム様」
おずおずと言った感じで、レティが名前を呼ぶ。
「うん、それでいい。そのうち、様も外してくれないかな。私は
ウイリアムの手は首筋から、レティの頬に流れるように触れ、そして軽く口づけをしてからまた座り書類に目を通す素振りをした。
(さて、エミリーはちゃんと私のところに来てくれるかな)
あの
エミリーは性格と言動に問題があるが、あれはあれで優秀だから動く気があるのなら何とかしてくれるだろう。
ウイリアムは、そう思いながらレティの入れてくれたお茶を飲んでいた。