第52話 私は聖女にはなれない
文字数 1,558文字
アイストルスト王国の騎士……雑用で連れてこられた兵まで剣を抜き守るように私の前に立つ。
「邪魔をするのなら、同罪とみなすが?」
デリック殿下がこちらの騎士たちに向かってそう言う。
「メグ様は、我がアイストルストの国民として女王陛下が受け入れた。今は軍属として後方支援をしてくださっている。罪人などと無礼千万 」
こちら側の騎士がそう言ったのを合図とし、戦いが始まってしまった。
ダグラスは私を守りながら戦っている。
こんなことをしている場合では無いのに、今払われた瘴気だって時間が経てばまた元に戻る。
冒険者や小隊の他の騎士たち、当たり前だけどルーブルシア王国の騎士も近隣に所属している騎士や兵士も魔物との戦いに苦戦しているだろう。
「デリック殿下。あなたは、この状況を分かっているのですか?」
私は、ダグラスに庇われながら叫んでいた。
「あなたが今成すべきは、こんな事では無いでしょう。どれだけの人が魔物と戦っていると思っているのですか」
「罪人の戯言 に付き合う気は無い。今も見ただろう、瘴気を払いさえすれば魔物の討伐は出来る。こちらは、聖女様が付いているのだからな」
デリック殿下は、悪い笑顔で笑って言った。瘴気が払われたのが本当にエミリーの力だと思ってるの?
多勢 に無勢 とはこのことを言うのだろう。
騎士たちが皆倒れてしまい。
ダグラスも、剣を取り落とし負傷してしまっていた。
それでも、私が傷つかないように抱きしめ兵士の剣は自分の身で止まるように……と。
「ダグラス。やめて! 離して、私」
「大丈夫……だ。メグ……が死なない限……り、俺は死なない…から」
大丈夫なんかじゃない。死なないというだけで、受ける傷は……痛みは軽減するわけではない。
私の中の光ちゃんは無反応だ。
「ダグラス、お願い。離して」
どうしよう。どんなに力を入れても押しのけようとしても、さらにダグラスから抱き込まれてしまう。
以前交わした言葉
『ちゃんと守ってくれるのでしょうね』
そう言った私の言葉にダグラスは
『そのために、俺はいるんだ』
と返してくれた。
それが、こんな事だったなんて……ダグラスの覚悟がこんなに重いものだったなんて、あの時の私は何も知らずにいた。
「ダグラス!」
もう、私の顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。
ダグラスの背中に剣を突き立てられたのが見えた。私を殺してはいけないと思っているのか、ダグラスの身体を貫きはしなかったけど。
私はダグラスに癒しの力を使おうとした、先ほどの放出でずいぶん力を持っていかれたけどまだ使える。
私が力を使おうとしたのが分かったのか、苦しそうな息でダグラスが言ってくる。
「メグ、俺……は大丈夫……だから。戦ってくれ……た皆の傷を……」
「そんな、ダグラス。あなたが一番重症なのに」
死なないだけで、痛くないわけじゃない。苦しくないわけじゃないのに。
敵兵が、ダグラスの背に斬りつける。そのたびにうめき声をあげるのに、私を抱きしめ庇う腕の力は強まるばかりで。
「メ……グ?」
私は、ダグラスに言われるまま左手を後ろに突き出した。
「エリアヒール」
私の中から、残った全ての力がどっと出ていくのが分かった。
誰が死んでも……誰が苦しんでいてもダグラスさえ無事なら……。
真っ先に、ダグラスを癒したかった。
私の弱い心は、そんな事ばかり考える。ダグラスがみんなを先に……そう願わなかったら、私はダグラスの方を癒していた。
こんなの聖女じゃない。私は……聖女には、なれない。
私は薄れる意識の中、ダグラスのぬくもりにすがっていた。
「邪魔をするのなら、同罪とみなすが?」
デリック殿下がこちらの騎士たちに向かってそう言う。
「メグ様は、我がアイストルストの国民として女王陛下が受け入れた。今は軍属として後方支援をしてくださっている。罪人などと
こちら側の騎士がそう言ったのを合図とし、戦いが始まってしまった。
ダグラスは私を守りながら戦っている。
こんなことをしている場合では無いのに、今払われた瘴気だって時間が経てばまた元に戻る。
冒険者や小隊の他の騎士たち、当たり前だけどルーブルシア王国の騎士も近隣に所属している騎士や兵士も魔物との戦いに苦戦しているだろう。
「デリック殿下。あなたは、この状況を分かっているのですか?」
私は、ダグラスに庇われながら叫んでいた。
「あなたが今成すべきは、こんな事では無いでしょう。どれだけの人が魔物と戦っていると思っているのですか」
「罪人の
デリック殿下は、悪い笑顔で笑って言った。瘴気が払われたのが本当にエミリーの力だと思ってるの?
騎士たちが皆倒れてしまい。
ダグラスも、剣を取り落とし負傷してしまっていた。
それでも、私が傷つかないように抱きしめ兵士の剣は自分の身で止まるように……と。
「ダグラス。やめて! 離して、私」
「大丈夫……だ。メグ……が死なない限……り、俺は死なない…から」
大丈夫なんかじゃない。死なないというだけで、受ける傷は……痛みは軽減するわけではない。
私の中の光ちゃんは無反応だ。
「ダグラス、お願い。離して」
どうしよう。どんなに力を入れても押しのけようとしても、さらにダグラスから抱き込まれてしまう。
以前交わした言葉
『ちゃんと守ってくれるのでしょうね』
そう言った私の言葉にダグラスは
『そのために、俺はいるんだ』
と返してくれた。
それが、こんな事だったなんて……ダグラスの覚悟がこんなに重いものだったなんて、あの時の私は何も知らずにいた。
「ダグラス!」
もう、私の顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。
ダグラスの背中に剣を突き立てられたのが見えた。私を殺してはいけないと思っているのか、ダグラスの身体を貫きはしなかったけど。
私はダグラスに癒しの力を使おうとした、先ほどの放出でずいぶん力を持っていかれたけどまだ使える。
私が力を使おうとしたのが分かったのか、苦しそうな息でダグラスが言ってくる。
「メグ、俺……は大丈夫……だから。戦ってくれ……た皆の傷を……」
「そんな、ダグラス。あなたが一番重症なのに」
死なないだけで、痛くないわけじゃない。苦しくないわけじゃないのに。
敵兵が、ダグラスの背に斬りつける。そのたびにうめき声をあげるのに、私を抱きしめ庇う腕の力は強まるばかりで。
「メ……グ?」
私は、ダグラスに言われるまま左手を後ろに突き出した。
「エリアヒール」
私の中から、残った全ての力がどっと出ていくのが分かった。
誰が死んでも……誰が苦しんでいてもダグラスさえ無事なら……。
真っ先に、ダグラスを癒したかった。
私の弱い心は、そんな事ばかり考える。ダグラスがみんなを先に……そう願わなかったら、私はダグラスの方を癒していた。
こんなの聖女じゃない。私は……聖女には、なれない。
私は薄れる意識の中、ダグラスのぬくもりにすがっていた。