第11話 お隣の国 リーフランド王国

文字数 1,604文字

 森で夜を明かし、私が目覚めたときはもうダグラスは野営をした痕跡を消していた。

「ああ、起きたか。おはよう、メグ」
 まだ毛布は私の身体に巻き付いたままだ。

「おはよう。綺麗に何もかも片づけるのね」
「あ? ああ。もう習慣でな、軍や騎士団ではいつもそうしてたから」
 戦地で自分たちがその場所にいたことを敵に気付かれないようにする工夫なのだとか。
 こんなところ、誰も来ないだろうけど、痕跡が残っていると思うと、気持ちが落ち着かないらしい。
 そういえばこの人、前世の日本でも戦争に行っている。

 私が毛布を渡すとそれもくるくると丸めて袋の中に入れていた。
「今日は、隣国のリーフランド王国を目指すのだろう?」
「ええ。その国を通らないとどこにも行けないから」

 そんな会話をしている間に、荷物をまとめ、ダグラスはまた私を抱っこしようとした。
「ちょっと、私歩けます。歩けるから」
 私は後ずさって逃げた。
 少しダグラスは残念そうに、
「そうか」
 とだけ言った。


 昨夜と同じように、私たちは歩き出す、抱っこはしてもらっていないけど。
 相変わらず私を中心に半径10メートルは自然浄化され、その後は、再び瘴気が渦巻くのが見えた。

 ほどなく森を抜け、国境が見える。
 この辺りは、瘴気は全く無いようだった。
 国を守るように高い外壁が覆う。こんな風になっているのが普通だろう。

 国境の門番をしている兵士が二人、眠たそうにボーっと国境の門のところに立っていた。

「おはようございます」
 とりあえず、何て言ったらいいのかわからなかったから挨拶をしてみる。
「おう。おはよう」
 兵士はかなり頭がボーっとしているらしい。

「って、え?」
 なんだか、一気に目が覚めたように兵士たちが私たちを見ている。
「ええ~っ? なんで、そっち側から来てるの?」
 いや……なんでって。

「あの、入国手続きをしたいのですが……」
 私は、気を取り直して兵士に言った。
「ああ。身分を証明するものは?」
 兵士は、私ではなく後ろのダグラスに訊いている。
 何で、私を無視するかなぁ~。

「これで良いかな」
 ダグラスが、荷物から前世でいう社員証みたいなものを見せた。
 偽造できないように、特殊な金属で作られているけど。

「ああ、冒険者ギルドの身分証明だな。剣士なのに、瘴気の森よく抜けて来れたなぁ」
 なにやら兵士がぶつぶつ言っている。

「これを読んで、サインしてくれ。それで入国手続きは終わるから」
 ダグラスは、書類を受け取っている。私も手続きしなきゃと思って、兵士に手を出すと。
「あ……そっか。ちょっと待ってな」
 と言って、事務所みたいなところに入ってすぐに出てきた。

「はい。お兄ちゃんと一緒とはいえ、よく頑張ったな。えらいぞ」
 私の頭を撫でながらそう言って、大きな飴玉と小さな袋にクッキーが数枚入った物をくれた。
「ありがとう」
 笑顔がちょっと引きつっていたかもしれない。いくつに見えてるんだ? 私は。


 と……とりあえず、街の中だ。
 結構にぎわっている。宿屋も何か所かありそうだから結構旅人も多いのだろう。

「冒険者ギルドの身分証なんて持ってるのね」
「あ? 兵士や騎士はみんな持っているぞ。身分をかくして動く時もあるからな。それに、冒険者と言っても所詮は何でも屋だしな。聖女様の結界があるから、モンスターなんか出ないし」

「なるほどねぇ……っと、じゃこの辺で別れましょ」
 そう言って、私はダグラスの返事も聞かず歩き出す。
 しばらく歩いて後ろを振り向くと、そこには誰も……いや、普通に歩いている人はいるけど……いなかった。
 
 そんなものよね。
 うん、ダグラスは瘴気の森を抜けるのに私を利用しただけなんだわ。
 そう思って、宿屋に向かって歩いて行った。
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