第37話 店の裏の食卓にしているテーブルの席に着いた女王陛下との話し合い

文字数 1,870文字

「賢いそなたのことだ、もう察してはいると思うが、ランラドフがそなたを街へ連れ出した時が一番危なかった時でね。店に籠ってもらっていても良かったのだが、どうせなら各国の暗部や諜報員をあぶり出したくて、そなたには囮になってもらった」
 申し訳ないと、女王陛下に頭を下げられてしまった。

「おやめください。私ごときに頭を下げるなんて……」
 その様子を見て、女王陛下が笑ってしまった。
「今は、メグの方が身分が高いのだけどね。それで、捕らえてみたら諜報員のほとんどが、ルーブルシア王国からと……」
 にこやかに話していた女王陛下の顔が少し厳しい物に変わる。

「ソルムハイム王国の王室所属の諜報員だった。皆、捕まった途端、歯に仕込んでいた毒で自害してしまって、何の情報も取れなかったけどね」

 ソルムハイム王国。この国に次ぐ大国だ。立地も一つ国を挟んでいるとはいえ、ほぼ隣国と言っても良い、タイムラグもほとんど無く聖女の力の恩恵を賜れる。
 私を拉致してまで連れ帰るメリットがない。
 
 いや……確かソルムハイムは
「ソルムハイム王国は、ルーブルシア王国の第二王子の外遊先でございます。ルーブルシア王国からの諜報、および暗部は第二王子派でしょう?」
 私はダグラスの方を見てそう訊いてみた。

「そうだな。しかも第二王子の子飼いだ。王室の暗部は使えなかったのだろう」
 ダグラスが答えた。だてに王太子派の近衛にいたわけでは無いようだ。

「ソルムハイム王国がルーブルシア王国の第二王子と繋がっていたとしても、証拠がない」
 王弟殿下が、ため息交じりにそういう。
「メグ。そなた蘇生術は」
「できません」
 女王陛下の問いに私は即座に答えた。
「聖女の術に確かあったはずだが?」
「できない……と申しております」
 騎士や兵士が少し動いた気がした。そう思った瞬間、ダグラスと王弟殿下ランラドフが私のそばに来る。まるで、かばうように。警戒した気配丸出しで。

「ランラドフ様、ダグラス。どうか、元の位置にお戻りください」
「だけど、メグちゃん。僕は君を守るために付いてきたんだ」
 ランラドフが周りを警戒しながら私に言う。

「ランラドフ様。わたくしを、殿方の背中越しにしか自分の意見を主張できない女に成り下がらせないでくださいませ」
 私は先日のランラドフが言った言葉『女性に荷物を待たせるような男にしないでくれ』を受けた形にして言った。今ここで私を庇えばダグラスはもとより、王弟殿下といえど立場が悪くなる。

 私のその言葉に、ランラドフは、どうすれば……といった感じで私を振り返った。
 だけれど、ダグラスの方は
「なるほど」
 と言って、自分の持ち場に戻って行った。ランラドフも、それに続き元の椅子に座る。

「出来ないというのは、能力の問題でか?」
「いいえ。倫理的に……です。国の暗部や諜報員を生き返らせたからとて、何かしゃべるとは思えません。それに、もししゃべったとしても用が済んだら処刑するのでしょう?」

「なるほど……確かにその通りだ。だが、そういうものだろう? 国のやり方というのは」
「そうですね。蘇生術は便利で都合の良いものです。もし戦争でも始まったら、兵が死んでも蘇生させてまた戦場に送りだせますもの。何度も何度も、痛みと死の恐怖を味わいながら兵士たちは戦うのでしょうね」
 それは、国に忠誠を誓っている以上、逃げることの出来ない地獄。

 私のそのセリフに、兵士や騎士たちがざわついてしまった。戦争が始まったら、そういう目に遭うのが自分たちかもしれないと気付いたみたいだ。
 訓練された兵士や騎士が、この程度でざわつくのはどうかと思う。徴兵された民間兵でもあるまいに。
 だけど、ここは戦争の無い平和が続いてる世界。実戦経験のない兵士だったら、こんなものだろう。

 護衛達の動揺に、女王陛下がため息を吐いた。
「これだから、そなたは怖い。わかった、あきらめる。ただ、そなたの護衛は増やさせてもらうよ。何があるかわからないからね」
「ありがとうございます」
 私は、女王陛下にニッコリ笑ってお礼を言った。
 だって、なんだかんだ言っても女王陛下は私が街に住むことを前提で動いてくれている。

 それは、私にとっては本当にありがたいことだった。


 だけど、この話し合いから数日後、
『ソルムハイム王国で女神から祝福を受けた聖女様が、召喚地ルーブルシア王国にご帰国なされた』という衝撃のニュースが世界中を駆け巡った。
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