第60話 竜魔王の所へ向かう朝

文字数 1,638文字

「私の同伴者はダグラスのみ。これが竜魔王の元に向かう条件です」
 翌朝、出発する準備を整えた小隊とその司令官ランラドフに向かって、私が言った言葉だった。

 昨夜、光ちゃんと話し合った結果だ。
 大人数になればなるほど、瘴気を払う範囲も広くなるし、怪我人も増える。
 私と今世の運命を繋げてあるダグラスだけならまだしも、小隊の人達は完全に足手まといだと光ちゃんは言う。
『あの人たちの力量だったら、いない方がましってもんでしょう?』
 なんて、光ちゃんったらひどい言い草だ。

「承服しかねます」
 ディルランが言ってくる。司令官が何か言う前に発言するなんて余程の事だと思うけど。
「本来の任務が終了した今、私たちの任務は、聖女様をお守りすることのみ」
 イライアスも前へ進み出て言う。もともと、そういう風に命令が出ていたのだろうけど。
 私の口から言わなくちゃいけないのかなぁ。なんだか、ため息が出る。

「私たちは足手まといだと言う事か」
 ランラドフが、私の代わりに言ってくれた。良かった、察してくれて……。
「竜魔王の近くの瘴気はこの辺のものの比では無いと思います。そうすると私は瘴気を払うので手一杯になってしまうんです。それに、先に冒険者たちが向かっているとの事。戦力はそれで充分です」
 これが私と光ちゃんが考えた表向きの理由。

「途中まで送る事は……」
 ランラドフがせめて途中までと言ってくるけど、名目上の仕事もして欲しいわ。
「そんな余裕があるのなら、魔物退治をしていてください。そろそろ、隣国のリーフランド王国の方も危ないでしょう? あちらの方が、結界が薄いのですから」
 私の指摘に、ランラドフは少し考えるそぶりをして言う。
「そうだな、そうしよう。中隊も待機させていることだし、一気に殲滅させよう」

 それじゃあと言う感じで、ダグラスと馬の方に向かった。途中までは馬を走らせないと森の中で一晩過ごさないといけなくなる。
「メグちゃん、ダグラス」
 ランラドフが私たちを呼ぶ声がしたから2人で振り向いた。
「必ず帰って来るんだぞ。私たちはいつまでもここで待っているからな」
 そんな事を言ってくる。だから私は
「行ってきま~す」
 と思いっきり手を振った。
 小隊の皆も振り返してくれていたけど、私たちが帰ってくるまで1人も欠けずに迎えてくれたらいい。
 残る方も、これだけ魔物が強くなってしまっていたら命懸けなのだから。


「ダグラス、剣を出して」
 小隊から離れたところで私がそう言うと、ダグラスが黙って剣を私の方に(さや)ごと渡して来た。
 私は(さや)から剣を抜き、自分の指に刃を当て剣に血を吸わせた。いや、何だか本当にスーッと剣の中に吸い込まれていっている。何? これ。
 昨夜、光ちゃんが武器への魔力付与は剣1本しか出来ないって言ってたのはこの事だったのね。

「おい。メグ、大丈夫か?」
 ダグラスが焦っている。
「多分、大丈夫。これで魔力が付与されたわ。剣が少し光って見えるから」
「いや、そうじゃなくてメグは」
「私は大丈夫。もう、指の傷も消えたし」
 ……思ったより、痛かったけど。

 武器への魔力付与。付与魔法とはちょっと違うらしい。
 魔法はその都度かけないとならないけど、聖女の血を吸わせてしまったら剣が朽ちてしまうまで有効なんだそうだ。

 そして、ダグラスの身体に防御の結界を張る。
「メグ?」
「もう、二度と私を庇ってあんなことはしないで。じゃないと、私はダグラスもここに置いて行くわ」
 ダグラスは、フッと笑って言う。
「わかった。だけどメグの盾になる事には変わりないがな」
 そう言って、私を馬に乗せ自分も跨って進み始めた。
 なんだか、頭の上で笑っているのだけれど……。

「そうだな、メグと心中するのも悪くない」
 何を考えて笑っているのかと思ったら、ダグラスはそんな物騒な事を言ってきたのだった。
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