第65話 聖女の二重結界……

文字数 1,461文字

「私は行かないわよ」
 水のおかげもあって皆の疲労が回復したので、さぁ出発という時になってエミリーがゴネ始めた。
「聖女様。竜魔王との戦いを支援するために来られたのではないですか。聖女様は、私がお守りしますから」
 流石にデイミアンも焦ってエミリーを説得している。ここでリタイアされては、何の為に連れて来たのか分からないと思っているのだろう。
 世界中に、エミリーが聖女だって認めてもらわないといけないものね。

 だけどまずいわね、デイミアンは戦力外でも良いけど、エミリーがしているネックレスの瘴気を払う結界が無いと困る。昨晩考えてたよりここの瘴気が強いんだよね。
 だから今日エミリーがしているネックレスの事を知って、その結界をついつい当てにして作戦を考えてしまっていた。私だけの結界でこの場をってなると、常時魔力を使ってないといけなくなる。
 そうなったら、光ちゃんが昨晩言っていた最後の作戦が、最悪魔力切れで使えなくなるわ。

「来ないなら来ないで構わない。だけどその首にかかっている奴、こっちにくれよ」
 クラークが冷たい目でエミリーを見て言う。
「な……何よ。あなた、聖女は保護対象だって言ったじゃない」
「その聖女の役割を降りるんだろ?」

 エミリーは、怖い雰囲気のクラークに何も言えなくなり、ネックレスを外そうとした。
 ダメだ。あれを外したエミリーを置き去りにしたら、魔物の餌食になってしまう。
 弱い魔物しかいないだけで、瘴気の濃いここでは無限に魔物が湧いて出ている。

「とれない。……何で?」
 エミリーが困惑している。私の女王陛下の通行証(ネックレス)と同じ仕組みなのかしら。
「じゃあ、一緒に来い」
「は……離してよ。ヤダだってば」
 喚いているエミリーをガン無視して、クラークは連れて行く。よく見ると離れないように魔力を使っていた。
 私とダグラスは、皆に離れないように付いて行った。皆がいる範囲が二重結界になるように。
 



 洞窟の中に入り、瘴気が濃くなればなるほど私達半径10メートルに結界が張られていることがはっきりわかる。
「これは……メグの周りには結界が張られていたのか?」
 ぼそぼそと私に言ってくる。
 騎士と言うだけで、普通の人間のはずのダグラスにも認識できるレベルだ。

 だけど、この二重の結界内に竜魔王を入れないと有利に戦えないんだよね。
 竜魔王との戦いの前に、瘴気との戦いになってしまう。さて、どうしようかな。
 ダグラスに認識されているくらいだから、エミリーにもみえてるだろうし……。
 竜魔王を結界内に入れるには、私達が離れて、また再度近づいて私がネックレスの力を使う必要があるのだけど、協力してくれないだろうなぁ、エミリーは。
 それどころか、計画を知られたら逃げ回られそうな気がする。

「ダグラス、私、竜魔王に近付こうと思うのだけど」
 前方を歩いているエミリーに聞こえないように、極力声をおとして言う。
「わかった」
 ダグラスは何も言わず同意してくれる。意味わかってるのかなぁ。

「ねぇ、ダグラス。私が何をしたいのか」
「結界内に竜魔王を入れるんだろう? あの2人はともかく、俺とデイミアンは結界の外に出た途端、動けなくなるからな」
 あ……ちゃんとわかってた。なら話は早いや。
「うん。じゃあ、よろしく、ダグラス」
 私が危なくなっても動かないでねって思って言ったのだけど……。
「おう。盾役は任せておけ」

 …………わかってなかった。
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