第44話 聖女様の出陣の準備
文字数 1,819文字
その日の夜遅くにベンは帰って来た。
商業ギルドに行ったにしては遅いなと思っていたのだけど、ギルド内から王宮に呼び出されていたようだった。
「遅かったのね。何か収穫あった? こっちは、冒険者の方々に」
そう私が言ったところでグィっとベンが私を引き寄せた。
「ルーブルシアの第二王子デリックが、ソルムハイムと繋がっているという物的証拠がそろいました」
私は思わず、ベンを見る。
「女王陛下との謁見は?」
「すぐにでもできますが、どうされますか?」
「すぐに用意します」
かしこまりましたと言って、ベンは礼を執っていた。
ダグラスに声をかけて、クレアに言ってすぐに支度をしてもらった。
女王陛下の執務室。夜中に近いというのに部屋の中はかなり明るい。
私たちはソファーで書類を見せられていた。
「これは……」
「ソルムハイム王国とデリック殿下がやり取りをした際の書類だな。ご丁寧に、デリック殿下のサインまで入っている。ルーブルシア国王のサインで無いのが救いだな」
ダグラスが、私の言葉 をとって言ってくる。
先日の諜報員たちもデリック殿下の子飼いだったところを見ると、国王陛下は関与どころか知らされてない可能性も出てきていた。
この書類のおかげで可能性でなく、事実上ソルムハイム王国とのつながりは、国ぐるみで無くデリック殿下の独断だということの裏付けが取れた事に出 来 る 。
「かの国の王太子は本当に優秀だ。軟禁状態でも、こんな重要書類を手に入れこちらまで送ってくるのだからな」
そう女王陛下が言う。
「軟禁? ウイリアム殿下、軟禁されているのですか?」
「こちらの密偵の話だと、聖女に対する不敬罪だそうだ」
不敬罪……このままでは、いずれ処刑されてしまう。
「もったいないと思うよ。死なせるには本当にもったいない」
女王陛下は、私をまっすぐに見てくる。
「行ってくれるか。ルーブルシア王国に」
「もちろん。こちらからお願いに上がるところでした」
「結界が壊れて、瘴気があふれているからな。魔物の発生も確認済みだ。ところでメグ」
「はい」
「なぜ、ルーブルシアの周りにだけ瘴気が強く、結界も強固なのか知っているかい?」
「いえ」
そう言えば何でだろう? 他の国の周りには人間が平気なほどの瘴気しかないのに。
「ルーブルシアの空気は美味しいんだよ、魔物にとって。聖女様が召喚されるほどの土地だからね。綺麗な空気程中和しようと瘴気が入ってくる。それを聖女様が浄化しての繰り返しだ」
清浄な空気を餌にして瘴気を集めてるって、そんな理由?
「それと、かの伝承の地だからね。近くに竜魔王が眠っているせいでもあるのさ。ただ、竜魔王の贄 は聖女様だ」
女王陛下の顔が少し厳しいものにかわる。
「命の危険があるよ。それでも、行くかい?」
私は、フッと笑ってしまった。何がのんびりライフだあの嘘つき女神。
ウイリアム殿下も命を懸けている、自分の国を救うために。
私は聖女だ。騙されたのだとしても、この世界にその事を了承して降り立った。
「行きます。わたくしのなすべき事をするために」
そう言った私の手をダグラスはしっかり握った。わかってるって、今さら置いて行ったりしないわよ。
「聖女様の仕事は、瘴気を払う事と結界の結びなおしだ。王宮の方にはこちらからランラドフを指揮官として騎士団を中心に小隊を出そう。名目は魔物討伐の依頼を受けたという事だからな。それ以上は、周辺国から戦争を仕掛けると思われてしまう」
小隊……最低人数でも50人くらいいる。護衛程度じゃダメだったのかな? ダメか、魔物もいるし。
「そういう事で、ダグラスは聖女様の護衛に専念してくれ」
「かしこまりました」
ルーブルシアの王宮はともかく、魔物の方は早急に何とかしなければならない。
私たちは王宮から戻ると、翌日の早朝に出発できるように準備を始めた。何も話さなくても王宮の使用人はもう事情を知っている。
翌朝、皆に留守の間の事を任せて、私たちは家を出て行った。
すでに、準備をし終えたランラドフが待っていたのだけど。
王族が、指揮官ですって格好で護衛も付けず早朝から街中に立ってる……って。
ええ、褒めてあげますよ。街中に、騎士団を中心とした小隊を待機させてないだけでも。
商業ギルドに行ったにしては遅いなと思っていたのだけど、ギルド内から王宮に呼び出されていたようだった。
「遅かったのね。何か収穫あった? こっちは、冒険者の方々に」
そう私が言ったところでグィっとベンが私を引き寄せた。
「ルーブルシアの第二王子デリックが、ソルムハイムと繋がっているという物的証拠がそろいました」
私は思わず、ベンを見る。
「女王陛下との謁見は?」
「すぐにでもできますが、どうされますか?」
「すぐに用意します」
かしこまりましたと言って、ベンは礼を執っていた。
ダグラスに声をかけて、クレアに言ってすぐに支度をしてもらった。
女王陛下の執務室。夜中に近いというのに部屋の中はかなり明るい。
私たちはソファーで書類を見せられていた。
「これは……」
「ソルムハイム王国とデリック殿下がやり取りをした際の書類だな。ご丁寧に、デリック殿下のサインまで入っている。ルーブルシア国王のサインで無いのが救いだな」
ダグラスが、私の
先日の諜報員たちもデリック殿下の子飼いだったところを見ると、国王陛下は関与どころか知らされてない可能性も出てきていた。
この書類のおかげで可能性でなく、事実上ソルムハイム王国とのつながりは、国ぐるみで無くデリック殿下の独断だということの裏付けが取れた事に
「かの国の王太子は本当に優秀だ。軟禁状態でも、こんな重要書類を手に入れこちらまで送ってくるのだからな」
そう女王陛下が言う。
「軟禁? ウイリアム殿下、軟禁されているのですか?」
「こちらの密偵の話だと、聖女に対する不敬罪だそうだ」
不敬罪……このままでは、いずれ処刑されてしまう。
「もったいないと思うよ。死なせるには本当にもったいない」
女王陛下は、私をまっすぐに見てくる。
「行ってくれるか。ルーブルシア王国に」
「もちろん。こちらからお願いに上がるところでした」
「結界が壊れて、瘴気があふれているからな。魔物の発生も確認済みだ。ところでメグ」
「はい」
「なぜ、ルーブルシアの周りにだけ瘴気が強く、結界も強固なのか知っているかい?」
「いえ」
そう言えば何でだろう? 他の国の周りには人間が平気なほどの瘴気しかないのに。
「ルーブルシアの空気は美味しいんだよ、魔物にとって。聖女様が召喚されるほどの土地だからね。綺麗な空気程中和しようと瘴気が入ってくる。それを聖女様が浄化しての繰り返しだ」
清浄な空気を餌にして瘴気を集めてるって、そんな理由?
「それと、かの伝承の地だからね。近くに竜魔王が眠っているせいでもあるのさ。ただ、竜魔王の
女王陛下の顔が少し厳しいものにかわる。
「命の危険があるよ。それでも、行くかい?」
私は、フッと笑ってしまった。何がのんびりライフだあの嘘つき女神。
ウイリアム殿下も命を懸けている、自分の国を救うために。
私は聖女だ。騙されたのだとしても、この世界にその事を了承して降り立った。
「行きます。わたくしのなすべき事をするために」
そう言った私の手をダグラスはしっかり握った。わかってるって、今さら置いて行ったりしないわよ。
「聖女様の仕事は、瘴気を払う事と結界の結びなおしだ。王宮の方にはこちらからランラドフを指揮官として騎士団を中心に小隊を出そう。名目は魔物討伐の依頼を受けたという事だからな。それ以上は、周辺国から戦争を仕掛けると思われてしまう」
小隊……最低人数でも50人くらいいる。護衛程度じゃダメだったのかな? ダメか、魔物もいるし。
「そういう事で、ダグラスは聖女様の護衛に専念してくれ」
「かしこまりました」
ルーブルシアの王宮はともかく、魔物の方は早急に何とかしなければならない。
私たちは王宮から戻ると、翌日の早朝に出発できるように準備を始めた。何も話さなくても王宮の使用人はもう事情を知っている。
翌朝、皆に留守の間の事を任せて、私たちは家を出て行った。
すでに、準備をし終えたランラドフが待っていたのだけど。
王族が、指揮官ですって格好で護衛も付けず早朝から街中に立ってる……って。
ええ、褒めてあげますよ。街中に、騎士団を中心とした小隊を待機させてないだけでも。