第28話 ウイリアム王太子殿下との会談 他の王宮行事は遠慮します
文字数 1,887文字
数日後、私が思った通りルーブルシア王国からこちらの国に、聖女様との会談の打診が来たとの事だった。
アイストルスト王国とルーブルシア王国との間には、少し距離がある。
書簡のやり取りは早駆けの馬で出来るけど、王族が正式に他国を訪問するのにそういうわけにはいかなかった。
街中 を……何と言うのだろう、大名行列の簡易版? の様に馬車や護衛の騎士、荷車が連なり王城に入っていく。
荷車には特産品等のお土産が乗せてあるのだろう。
少しの間、滞在するだけだろうに何とも大げさな事。
その大名行列からさらに一週間後、王宮からのお迎えが来た。
私は、礼に反することを知りながら、平民が謁見に呼ばれるときの衣装を身に纏 っていた。一応、手袋や扇子等の小物は身に着けているけれど。
こちらの王室からの衣装 や小物も、ウイリアム王太子殿下からの衣装 や小物も届いてはいたのだけどすべて送り返してしまっている。
うっかり受け取ってしまったら、王宮の夜会や行事にまで参加させられてしまうわ。
私は、王宮の離れの一角にあるテラスに案内されていた。
近くには、手入れされた花壇があり、お庭の一部である幻想的な森も見える。
離れての護衛もしやすく、お話も外には漏れにくいある意味最高の場所である。
今日はダグラスも、他の騎士団の方々と一緒に離れて私の護衛をしてくれていた。
少し経つと、王太子が護衛と共にやって来た。
「マーガレット……いや、今はメグと名乗っているのだったね」
「お久しぶりでございます。ウイリアム・ルーブルシア王太子殿下」
私は、そう言って優雅に礼を執る。私は街の高級ブティックで仕立てた王宮で謁見も出来る衣装を着ているけど、普段から煌 びやかな衣装を見慣れている王族の目には粗末に見えるだろう。
そんな姿で、綺麗に魅せても、滑稽なだけかしら。
席に着き、私は紅茶やお茶菓子を勧めた。
王太子は素直に紅茶に口を付ける。
王族は、毒見を介さないものを口にしないが、例外はある。
このように、もてなしを受けている時だ。
口にしないという事は、毒が入っていることを警戒してますと取られても仕方がなく。他国でそれをしてしまうと、外交問題にもなりかねない。
場合によっては、毒が入っているとわかっていても、口を付けなければならない時もあるのだから。
「髪を短く切って、化粧もしなければ、随分と幼く見えるのだな」
私は何も言わない。だって、今さら話すことなど何もない。
「まるであの頃の様だ」
王太子は、まるで昔を懐かしむように私を見る。
「覚えているか? 王宮の庭で二人して迷った時の事を」
「ええ。森のようなお庭で、侍女が迎えに来なかったら私たちずっと迷ったままでしたね」
「私が一人で迷っていたら、迎えは来なかった」
少し寂しそうに、うつむきながらそんなことを言う。そんなことはない……と、言えるほど私は無知ではなかった。
身分の低い母親を持つ王太子。幼少期は、侍女にさえ侮 られていた。
王妃様が、自分の子と分け隔てなく接していなかったら、ウイリアム殿下は王太子になれていなかっただろう。
「そんな些細な事が、子どもだった私には辛く思えてね。そなたを妬ましく思ったりもしたものだ」
王太子は、随分と余所行きの言葉遣いをしている。
ここは、他国でこの場所ですら公の場だからだろうか。そばに侍女たちも控えている。
『お前』呼ばわりで、私を断罪したあの時とは大違いだわ。
「すまなかったね。学園のパーティーで、私はずいぶんと酷いことをしてしまった」
「もう、すんだことですわ。謝罪の為だけに、遠路はるばるいらしたのですか?」
「いや……その」
王太子が、珍しく口ごもる。
「戻って来てはくれないだろうか」
まるで夫が実家に戻った妻に頼んでいるような言い方になっている。
少し頬に赤みが差している元婚約者の様子にフッと笑みが漏れてしまう。
「わたくしは、もうずいぶん昔から殿下の事が好きでした」
本当に……心から。
「だったら」
「でも、わたくしは殿下の事が信じられないのです。今、この時の表情、話題の選び方、どれ一つを取っても、計算されたものだと思ってしまいますわ」
王太子殿下は、私の方をまっすぐ見るだけで何も言わない。
あなたが本当に愚かでエイミー様の事が好きだと言っていたなら、まだ信用できたのかもしれないのだけれども。
アイストルスト王国とルーブルシア王国との間には、少し距離がある。
書簡のやり取りは早駆けの馬で出来るけど、王族が正式に他国を訪問するのにそういうわけにはいかなかった。
荷車には特産品等のお土産が乗せてあるのだろう。
少しの間、滞在するだけだろうに何とも大げさな事。
その大名行列からさらに一週間後、王宮からのお迎えが来た。
私は、礼に反することを知りながら、平民が謁見に呼ばれるときの衣装を身に
こちらの王室からの
うっかり受け取ってしまったら、王宮の夜会や行事にまで参加させられてしまうわ。
私は、王宮の離れの一角にあるテラスに案内されていた。
近くには、手入れされた花壇があり、お庭の一部である幻想的な森も見える。
離れての護衛もしやすく、お話も外には漏れにくいある意味最高の場所である。
今日はダグラスも、他の騎士団の方々と一緒に離れて私の護衛をしてくれていた。
少し経つと、王太子が護衛と共にやって来た。
「マーガレット……いや、今はメグと名乗っているのだったね」
「お久しぶりでございます。ウイリアム・ルーブルシア王太子殿下」
私は、そう言って優雅に礼を執る。私は街の高級ブティックで仕立てた王宮で謁見も出来る衣装を着ているけど、普段から
そんな姿で、綺麗に魅せても、滑稽なだけかしら。
席に着き、私は紅茶やお茶菓子を勧めた。
王太子は素直に紅茶に口を付ける。
王族は、毒見を介さないものを口にしないが、例外はある。
このように、もてなしを受けている時だ。
口にしないという事は、毒が入っていることを警戒してますと取られても仕方がなく。他国でそれをしてしまうと、外交問題にもなりかねない。
場合によっては、毒が入っているとわかっていても、口を付けなければならない時もあるのだから。
「髪を短く切って、化粧もしなければ、随分と幼く見えるのだな」
私は何も言わない。だって、今さら話すことなど何もない。
「まるであの頃の様だ」
王太子は、まるで昔を懐かしむように私を見る。
「覚えているか? 王宮の庭で二人して迷った時の事を」
「ええ。森のようなお庭で、侍女が迎えに来なかったら私たちずっと迷ったままでしたね」
「私が一人で迷っていたら、迎えは来なかった」
少し寂しそうに、うつむきながらそんなことを言う。そんなことはない……と、言えるほど私は無知ではなかった。
身分の低い母親を持つ王太子。幼少期は、侍女にさえ
王妃様が、自分の子と分け隔てなく接していなかったら、ウイリアム殿下は王太子になれていなかっただろう。
「そんな些細な事が、子どもだった私には辛く思えてね。そなたを妬ましく思ったりもしたものだ」
王太子は、随分と余所行きの言葉遣いをしている。
ここは、他国でこの場所ですら公の場だからだろうか。そばに侍女たちも控えている。
『お前』呼ばわりで、私を断罪したあの時とは大違いだわ。
「すまなかったね。学園のパーティーで、私はずいぶんと酷いことをしてしまった」
「もう、すんだことですわ。謝罪の為だけに、遠路はるばるいらしたのですか?」
「いや……その」
王太子が、珍しく口ごもる。
「戻って来てはくれないだろうか」
まるで夫が実家に戻った妻に頼んでいるような言い方になっている。
少し頬に赤みが差している元婚約者の様子にフッと笑みが漏れてしまう。
「わたくしは、もうずいぶん昔から殿下の事が好きでした」
本当に……心から。
「だったら」
「でも、わたくしは殿下の事が信じられないのです。今、この時の表情、話題の選び方、どれ一つを取っても、計算されたものだと思ってしまいますわ」
王太子殿下は、私の方をまっすぐ見るだけで何も言わない。
あなたが本当に愚かでエイミー様の事が好きだと言っていたなら、まだ信用できたのかもしれないのだけれども。