第49話 聖女様のお仕事と冒険者たちのお話
文字数 1,761文字
私は毎日瘴気を払い、魔物と戦って傷ついた人達を他の支援系の術者たちと癒していた。
だけど瘴気を払い人々を癒す事は出来ても、結界の張り直しをすることは出来ない。
瘴気が日に日に強くなっていってるこの状態で、結界を張ってしまったら、結界の薄い隣国に瘴気と魔物が流れ込んでしまう。
今まで清浄な空気で魔物を引き寄せていたルーブルシア王国にも瘴気が流れ込んでしまっていて、本来の役割を果たせないでいた。
そして私も聖女の力を使い続けてるうちに、気付いてしまった事がある。
聖女の力は無限では無い。
他の人の何十倍も魔力を持っていても、使い続ければ枯渇するのだ。しかも、他の術者が軽症者しか回復できないのに対し、私は重傷者の回復も担当している。
魔力が枯渇するのは、身体が人間なので仕方がないと光ちゃんが教えてくれた。
光ちゃんは、人間の理 の範囲内であれば口出しは一切してこない。
だけど、常識ソフトでもわからないことは、気まぐれの様に教えてくれていた。
日に一度は、王宮からランラドフが戻ってくる。
私には優しい笑顔を向けてくれるけど、小隊との打ち合わせの後はいつも少し厳しい顔をしていた。
ダグラスも私のそばにいる時は穏やかだ。いや、ダグラスやランラドフだけじゃない、小隊の誰もが私には優しく接してくれている。
まるで、何かを隠すかのように……。
何日か経ったら、クラーク達が王宮から戻って来た。
女性2人は随分と機嫌が悪そうだった。
「よう、メグ」
クラークが声を掛けてくる。
私は魔力回復のためにダグラスと野営テントに戻って休憩をとっていたところだった。
「お帰りなさい。王宮はどうでした?」
仲間でもなんでも無いのに、お帰りなさいは変な気がするけど……。
「おう。ただいま。謁見の間で、国王陛下と噂の聖女様に会って来たぜ」
「国王陛下と聖女様が、一緒に謁見の間にいたのですか?」
「そうだよ。その後で、デリック殿下との謁見が有って少し滞在が長引いたんだ」
今のクラークの話だと、国王がエミリーを聖女様だと認めてしまっている事になる。
ソルムハイム王国内にある魔法陣から直接ルーブルシア王国の魔法陣に飛んだと噂されている聖女様を……。
「デリック殿下は、何が目的なのでしょう?」
つい、ボソッと呟いてしまった。答えなんか返ってくるはずないのに。
だけど、クラークはダグラスの方をチラッと見て私に訊いてくる。
「メグ。あの旦那は?」
クラークが訊いてるのは、ダグラスは信用できるのか? という確認。
この野営テントには、冒険者の4人と私とダグラスだけだ。
後は、戦っているか他のテントで休んでるか作業しているか……室内や街中と違って密偵が隠れる場所も無い。
「ダグラスは、信頼出来るわ。私が国外追放されたときに、全てを捨てて付いて来てくれたから」
信用できるという根拠を私は話したつもりだったのだけど、少し悲しげな顔をしたんだと思う。
4人とも一瞬固まってしまっていた。
「そうか、わかった。なら言うけど、デリック殿下の目的は大国二国の戦争だ」
「戦争? そんな」
「今のままでは、ソルムハイム王国はアイストルスト王国に逆らえない。だけど、魔物を誘発する瘴気が濃くなるのを恐れて戦争も仕掛けられないでいるだろう? あの国は」
そうクラークは言ってきた。
そう……それがこの世界が長きに亘 って戦争が起きなかった理由。人間の負の感情が、死に至る恐怖が瘴気を濃くし、ルーブルシア王国の周辺どころか竜魔王に張っている結界すらいつか壊してしまう。
そして、逃げ場のない瘴気に包まれた世界は、聖女すら召喚することが叶わず、滅亡の道をたどるだろう。
「今、事実上この世界の覇権はアイストルスト王国が執っているだろ? だけど、あの国はウイリアムを次期国王に推している。デリック殿下が国王になるためには、自分を推してくれているソルムハイム王国に覇権を執ってもらう必要があるんだ」
クラークはそう言うけど、瘴気や魔物がいなくても戦争が始まってしまったら王位争いどころではなくなるだろう。
なんてバカな事を……。
だけど瘴気を払い人々を癒す事は出来ても、結界の張り直しをすることは出来ない。
瘴気が日に日に強くなっていってるこの状態で、結界を張ってしまったら、結界の薄い隣国に瘴気と魔物が流れ込んでしまう。
今まで清浄な空気で魔物を引き寄せていたルーブルシア王国にも瘴気が流れ込んでしまっていて、本来の役割を果たせないでいた。
そして私も聖女の力を使い続けてるうちに、気付いてしまった事がある。
聖女の力は無限では無い。
他の人の何十倍も魔力を持っていても、使い続ければ枯渇するのだ。しかも、他の術者が軽症者しか回復できないのに対し、私は重傷者の回復も担当している。
魔力が枯渇するのは、身体が人間なので仕方がないと光ちゃんが教えてくれた。
光ちゃんは、人間の
だけど、常識ソフトでもわからないことは、気まぐれの様に教えてくれていた。
日に一度は、王宮からランラドフが戻ってくる。
私には優しい笑顔を向けてくれるけど、小隊との打ち合わせの後はいつも少し厳しい顔をしていた。
ダグラスも私のそばにいる時は穏やかだ。いや、ダグラスやランラドフだけじゃない、小隊の誰もが私には優しく接してくれている。
まるで、何かを隠すかのように……。
何日か経ったら、クラーク達が王宮から戻って来た。
女性2人は随分と機嫌が悪そうだった。
「よう、メグ」
クラークが声を掛けてくる。
私は魔力回復のためにダグラスと野営テントに戻って休憩をとっていたところだった。
「お帰りなさい。王宮はどうでした?」
仲間でもなんでも無いのに、お帰りなさいは変な気がするけど……。
「おう。ただいま。謁見の間で、国王陛下と噂の聖女様に会って来たぜ」
「国王陛下と聖女様が、一緒に謁見の間にいたのですか?」
「そうだよ。その後で、デリック殿下との謁見が有って少し滞在が長引いたんだ」
今のクラークの話だと、国王がエミリーを聖女様だと認めてしまっている事になる。
ソルムハイム王国内にある魔法陣から直接ルーブルシア王国の魔法陣に飛んだと噂されている聖女様を……。
「デリック殿下は、何が目的なのでしょう?」
つい、ボソッと呟いてしまった。答えなんか返ってくるはずないのに。
だけど、クラークはダグラスの方をチラッと見て私に訊いてくる。
「メグ。あの旦那は?」
クラークが訊いてるのは、ダグラスは信用できるのか? という確認。
この野営テントには、冒険者の4人と私とダグラスだけだ。
後は、戦っているか他のテントで休んでるか作業しているか……室内や街中と違って密偵が隠れる場所も無い。
「ダグラスは、信頼出来るわ。私が国外追放されたときに、全てを捨てて付いて来てくれたから」
信用できるという根拠を私は話したつもりだったのだけど、少し悲しげな顔をしたんだと思う。
4人とも一瞬固まってしまっていた。
「そうか、わかった。なら言うけど、デリック殿下の目的は大国二国の戦争だ」
「戦争? そんな」
「今のままでは、ソルムハイム王国はアイストルスト王国に逆らえない。だけど、魔物を誘発する瘴気が濃くなるのを恐れて戦争も仕掛けられないでいるだろう? あの国は」
そうクラークは言ってきた。
そう……それがこの世界が長きに
そして、逃げ場のない瘴気に包まれた世界は、聖女すら召喚することが叶わず、滅亡の道をたどるだろう。
「今、事実上この世界の覇権はアイストルスト王国が執っているだろ? だけど、あの国はウイリアムを次期国王に推している。デリック殿下が国王になるためには、自分を推してくれているソルムハイム王国に覇権を執ってもらう必要があるんだ」
クラークはそう言うけど、瘴気や魔物がいなくても戦争が始まってしまったら王位争いどころではなくなるだろう。
なんてバカな事を……。