第38話 聖女様の噂が世界を駆け巡る

文字数 2,046文字

『ソルムハイム王国で女神から祝福を受けた聖女様が、召喚地ルーブルシア王国にご帰国なされた』
 なんでも、魔法陣から魔法陣への転移魔法で帰国なされたとの事。そんな(ニュース)が、世界中を駆け巡ったのだ。

 ソルムハイム王国からも、ルーブルシア王国からも正式な声明、各国への書簡などは全く出ていない。旅をしている冒険者や商人たちを通じて噂が流れている。
 いわゆる口コミ。この世界、裕福層や貴族はともかく、普通の平民の識字率は低い。
 信憑性のある噂は、十分に情報源になる。

 日本の平安時代同様、人を追い込み殺してしまうことだってできるのだから、単なる噂と馬鹿に出来ないのであった。


「メグ様。いかがいたしましょう」
 お店の開店準備をしている私にボブが焦って言ってくる。
 いかがいたしましょうって言ってもね。
「良いんじゃないかな、別に。私は聖女ですって言って暮らしている訳ではないし。女王陛下から、聖女じゃ無くても生活の保障はするよって言われているし」
「ですが……」
 王宮の方は、バタバタしてるみたいだけどね。

「だが、面白くはないな」
 外の掃除を担当してくれていたダグラスがそう言いながら、ほうき片手にお店に入って来た。
「ありがとう、お疲れ様。面白くないって何が?」
 ダグラスから、ほうきを受け取りながら訊いていた。
「どうせあいつだろう? 聖女って、あの何とかいうバカ女。聖女の名を使って悪さするんじゃないか?」
 う~ん。悪さされたら困るかな。裏にいるのは、デリック殿下だろうし。
 噂の出どころって、冒険者と商人だっけ……。
「ベン、いる?」
「はい。何でしょう? メグ様」
 ベンは、書類を整理していたようで、片手に書類を持ったままお店に出てきた。
「商業ギルドに行って、噂を確かめてきてくれる? えっと、そうね。ギルドに来ている旅の途中の商人に話を聞いてちょうだい」
 ギルドの職員に話を聞いてももう新しい情報は何も出ないだろうからね。

「ダグラス。私と冒険者ギルドに行ってくれるかしら」
「ああ。そこで冒険者に話を訊けば良いんだな」
 こういう事はすぐに察してくれるのに、なんで女性の事になると察しが悪くなるのかしらね。

 そうして、ボブを店番に残して私たちはそれぞれの場所に向かったのであった。



 冒険者ギルド、3階建ての大きな建物だ。
 私は目の前を通ったことはあるけど、中に入るのは初めてだった。
 
 中も結構広い。奥にカウンターがあって手前の方には、依頼を張ってあるのだろう、紙を張り付けたボードが何個かあった。
 冒険者ギルドと言えば荒くれ者が大勢いそうなイメージだったけれど、兵士風の男性やローブを来た女性。10代の少年なんかが、雑用の依頼を見ている。

 周りを見渡していると、カウンターで何らかの手続きをしたばかりの4人組がいた。
 全体的に埃っぽく、以前私たちがしていたようにアイテムボックスを持っているのを荷物でごまかしている。
 そして、女性が2人もいるのに4人とも薄汚れた格好。

 まさに今まで旅をしてきて、今この国にたどり着きましたって感じだ。
 アイテムボックスを持っているって事は、どこかの国の王族の依頼を受けたことがあるか、もしくは以前のダグラスと同じで騎士が身分を隠しているか……なんだろうけど。

「あの、受付をされますか?」
 カウンター越しに、受付嬢が声をかけてきた。
 ダグラスが、反応して受付嬢の方に向かう。

 その間に私は、冒険者らしき人達に声をかけた。
「あの、旅をしてきたんですか?」
「ん? ああ、何か聞きたいことでもあるのか?」
「えっと、聖女様の噂の事なんですけど」

 私は子どものふりをした。子ども相手だと油断して色々話してくれるかもしれない。
「聖女様……ねぇ。女の子はそういう話好きだねぇ~」
 もう1人の男性も、私の方に寄って来た。2人とも、腰に剣を差している。
「うん。なんだか一瞬で国を移動したって聞いて、ビックリしちゃって」

「まぁ、なぁ。確かに聖女様はルーブルシア王国にいるんだろうけど、ソルムハイム王国にいたって話はどうなんだろうな」
「所詮は出どころのわからない噂だしな」
 なんだが苦笑いをしながら、言い合っている。
 みんながみんな、信じている訳じゃないんだ。

「な~にちっちゃい子に構ってるのよ。あんたたちロリコンだっけ?」 
 あ、ロリコンって言葉こっちにもあるんだ。自動翻訳の問題かな?
「ちげーよ。このお嬢ちゃんが、聖女様について聞きたいって言ったからさ」

 ふ~ん、って感じでローブ姿の女性からジロジロ見られてる。そのすぐ後ろの、魔女っ娘みたいな服装にマントを羽織っているだけの女性からも見られているけど。
 えっと、もしかしたらこの男の人達、乙女ゲーム主人公の攻略対象……なのかな? 

 例の後から勇者とか英雄とか言われちゃう人達?
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