第31話 ランラドフ様とのデート(護衛という名の監視付き?)

文字数 2,038文字

 しばらくは、色々なお店を見てまわっていた。
 ランラドフは、ちゃんと聞き分けて大人しくウインドーショッピングを楽しんでる。
 いやいや、聞き分けてって、どこの子ども? 一応、私の方が年下だし。

 時々、横目で何かを見ているような……。
「どうかしましたか? ランラドフ様」
「ああ、いや。何だかこんな風に護衛されるのは初めてだから」
 ランラドフは力なく笑って見せている。確かに、普段は護衛はすぐ近くにいるものだけど。

「お疲れになりました? 少し早いですけどお昼のお食事になさいます?」
「メグちゃん。言葉遣いが戻ってるよ」
 ちゃん付け?
「え……と」
「駄目かな、メグちゃんって呼んだら」
「いいですけど……」

「じゃ、メグちゃんは何が食べたいの?」
「そうですね。最近、顧客になってくれたレストランがあるのだけれど、パスタがとても美味しいんですって」
 私はさりげなくリックさんの店を勧めた。
 うちのお水で作ったプロの料理を食べてみたくて。

「じゃあそこに行こうか」
 そう言いながら、周りに目配せをしていた。大変だわね、王族も。街に出るのにも大勢の監視の中なのね。

 表通りから、少し奥まった静かな場所にそのレストランはある。道の角を曲がった時に、見慣れた顔が見えた気がした。
 あれは……デリック殿下のところで見かけた……。
 私がそちらに気をとられると、サッとかばうようにランラドフが自分の身体で私の視界をさえぎった。
「お勧めのレストランってここ?」
 にこやかに、私に訊いてくる。気付かぬふりをしろって言う事?
「ええ。ここは魚介類も美味しくて、お昼に魚介類のパスタを出してるんです」
 そう言いながら、私も何食わぬ顔をしてレストランに入って行った。

 大丈夫、護衛の中にはダグラスもいるし、デリック殿下の配下がどのくらい平民に紛れているのかわかるだろう。でも気を抜いたら手が震えてしまう。

 私の震えた手をそっとランラドフが握ってくれた。
「大丈夫だよ」
 言葉にはなっていないけど、ランラドフの唇がそう動いた。


 食事を終えてまた街へ出ていく。正直、自分のお店に帰りたいのだけど……。
「今日、ルーブルシア王国からの国賓が帰国するための夜会が開かれるんだ。そして、明日には帰国の途に就く」

 ランラドフは、街を歩きながら小声で私に情報をくれる。
「君を連れて帰れなかったとなると、今後、彼の立場は厳しい物になるだろうね」
 どうして私にそんな事を言うのだろう。
 このまま、帰してしまって良いのかい? とばかりに……。
「ランラドフ様は、私が帰った方が良いと思いますか?」
「いや。あの国は、わかっていないようだからね。ただ、彼はともかく君の方は好きだったのではないのかと思って」

 ああ、ウイリアムの事が好きだから辛いのではないかと言いたいのね。
 だけど、正直自分にも分からない。マーガレットは確かにウイリアムの事が好きだろう。
 ウイリアムの事を思うと今でも胸の痛みはある。だけど、何だか他人事の様で……。

「好き……だったのだと思います。でも、信頼出来ない人のそばにいることはできません」
「そう?」
「ええ。恋がかなって婚姻を結んでしまったら、その後は日常生活が待っているだけですわ」
 私はにっこり笑って、ランラドフに言った。
「信頼できない人と、一緒には暮らせないでしょう?」
「それは……そうだけど。メグちゃんって、外見は少女なのに」
 なんだか、私の横でぶつぶつ言いだした。
 
「あ……本屋に寄って良いですか?」
「うん、何か欲しい物でも?」
「悲恋なのですが、古いおとぎ話のような恋愛小説があるってお客様から聞いて」
「ふ~ん」

 足早に本屋に入る私の後を、ランラドフはゆっくり付いて入った。

「あっ、あった。良かったわ、売り切れてなくて」
「ああ、それ。古い伝承を元に書いている物語だね」
「知ってるんですか?」
「侍女たちが噂をしてたからね。さすがにその本は読んでないけど。貸して、お金払ってくるから」
 そう言って、ランラドフはサッと私から本を取り上げる。
「あっ、自分で」
「これくらい贈らせてよ。靴も……夜会用の衣装(ドレス)も何もかも贈らせて貰えなかったんだから」

 こちらの王室からの物は、ランラドフ様のお見立てでしたか。

 もしかしたら、今回私は危なかったのかもしれない。だから、ランラドフがわざわざ王宮から出てきて、私を街に誘ったんだ。
 お店に籠っていて人知れず誘拐されるのを防ぐために……誰も何も言わないから、憶測にすぎないけど。

「はい。プレゼントって言ったらリボン付けてくれたよ」
 可愛らしくラッピングされた本を見せてくれた。受け取ろうと手を伸ばすと
「僕を女性に荷物を持たせるような男にしないでくれる?」
 と言って、そのまま私のお店に帰るまで持っていてくれた。
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