第30話 ランラドフ殿下が街にやって来た
文字数 2,251文字
もう私には関係ないけど、王宮では連日夜会や貴族を招いてのお茶会等が開かれているようだった。ウイリアム王太子殿下の滞在中ずっとこんな感じらしい。
本当に、衣装 類を受け取らなくて良かった。
私は、いつものように掃除をしながらお店を開ける準備をしている。
コロン。
お店の扉が開く音がした。
「いらっしゃいませ。まだ、準備が出来ておりませんのでそちらに座って……」
お待ちくださいませ……と続くはずだった言葉を飲み込んでしまった。
「おはよう。朝早くから大変だね」
店の入り口に、ニッコリ笑ってランラドフ王弟殿下が立っていた。
「え……と、こっちのテーブルのところに座って待っていたら良いのかな?」
「王弟殿下が来るような場所ではございません」
私は、焦って礼を執った。
いくら、裕福層が買い物をする街、お店だとしても王族が直々に来る場所ではない。
高位貴族だって、商人をお屋敷に呼びつけて買い物をするものだ。
何を考えているのよ。いくら乙女ゲーム並みに身分制度が緩いといっても、街中に王族が出てくるなんて危なすぎる。
「ランラドフだよ。今日は王族としてやって来てるんじゃないんだ」
「ですが」
「君は黙っていると、年端もいかない少女の様なのにね」
王弟殿下……ランラドフは、そう言って私の近くまで来て手の甲にキスをした。
「そんな事をする平民はいません」
「え? そうなの?」
ランラドフは、本気で驚いているようだった。いや、全くいないわけでは無いけど。
どうしよう……まさか、ボブの時の様に街に行って平民の言動を学んでこいとは、言えない。
「メグ、今日の予定は一日お店で……」
裏からダグラスが一日の予定確認をするためにお店に入ってきてランラドフに気が付いた。
即座に礼を執る。
「王弟殿下にはご機嫌麗しく存じ上げます」
「……いや、今日は王族として来たんじゃないんだ」
ダグラスからも礼を執られ、困った顔をしていた。そして、ふと思いついたように言う。
「ダグラス。今日一日、君のメグを借りても良いかな」
「私のものではございませんが、かまいませんよ」
だから何で、私の意志を無視するかなぁ。
「ダグラス、勝手に私を貸し出さないで……」
私は、かなりムスッとした顔をしていたのだろう。ランラドフは少し悲しそうな顔になって言ってくる。
「私……いや、僕と出歩くのはそんなに嫌かな?」
「いえ……そうじゃなくて」
「メグは、セキュリティの面を心配しているのでしょう」
ダグラスが、ランラドフに言う。殿下の機嫌を損ねないように……。
そして、ダグラスは私の横までやって来た。
「大丈夫だ、メグ。今この街は、護衛の騎士や兵士で溢れている。それにメグが街に出るのならその護衛に俺も交じるから安心して王弟殿下を案内しなさい」
また、保護者の口調になっている。ランラドフの前だから?
「わかったわ、着替えてくる。ダグラス、ボブが来るまで店番頼めるかしら」
「ああ。まかせとけ」
私は、裏に行ってクレアに予定変更を告げる。
ランラドフがお店に来ていることを告げると驚いてはいたが、着替えを手伝ってくれた。
お店に降りると、ボブとベンがランラドフに跪いていた。
私が来たのに気づくとサッと立ち上がる。ランラドフはダグラスにも目配せをしていたようだった。
「メグ、何て可愛らしいんだ。僕の為に装ってくれたんだね。さぁ、今日はどこに行こう。メグのお勧めは何だい?」
ランラドフは、大げさに褒めてくれる。あまり褒められたことが無かった私は気恥ずかしくて少し顔が赤くなった。
「あ……ありがとうございます。今日は、色々と街中を見てまわりたいのですが」
「ああ。そうだね、僕も平民らしく振舞えるように頑張るよ」
ニコニコと笑って言ってくる。なんだか、少し幼い感じもするけど。
ボブとベンとお店の事を少し打合せしてから私たちは出かけた。
少し離れてダグラスが付いて来ていたが、他の騎士たちに紛れてしまった。
「あっ、ねえねえ。この靴なんて君にピッタリじゃない?」
靴屋のショーウィンドーに並んでいる靴の一つを指してランラドフが言ってくる。
確かにシンプルで、どの服にも合いそうな靴だけど。
「ああ。あそこのお店の服と合わせて……、この扇子も」
ダメだ……目に入った物全て買いそうだこの馬鹿王弟は……。
「今日は買い物はしません」
「え? なんで?」
「今日は、ランラドフ様と街の様子をゆっくりと見てまわりたいです。だから、買い物はしません」
前世で子どもに言って聞かせた言葉だ。一度、折れて買ってしまったら、次からも買って良いことになってしまう。
案の定、ランラドフは戸惑っていた。今までは、買うために目の前に商品が並べられていたのだろうから。
「ランラドフ様はいくつになったのですか?」
「19……だけど」
「19歳。立派な大人ですわよね。子どもでも、もう少し聞き分けが良いですわよ」
ランラドフは、一瞬きょとんとした顔をしたけれど、嬉しそうに笑う。
「君は母上の様だね。僕の母上もそんな言い方をしていたよ」
お母様……って、前王妃様のこと?
前王妃様と同じだなんて、恐れ多い……。
「うん、分かった。今日は買い物をするのでは無く、市場調査だね」
…………ウインドーショッピングなのですけどね。
本当に、
私は、いつものように掃除をしながらお店を開ける準備をしている。
コロン。
お店の扉が開く音がした。
「いらっしゃいませ。まだ、準備が出来ておりませんのでそちらに座って……」
お待ちくださいませ……と続くはずだった言葉を飲み込んでしまった。
「おはよう。朝早くから大変だね」
店の入り口に、ニッコリ笑ってランラドフ王弟殿下が立っていた。
「え……と、こっちのテーブルのところに座って待っていたら良いのかな?」
「王弟殿下が来るような場所ではございません」
私は、焦って礼を執った。
いくら、裕福層が買い物をする街、お店だとしても王族が直々に来る場所ではない。
高位貴族だって、商人をお屋敷に呼びつけて買い物をするものだ。
何を考えているのよ。いくら乙女ゲーム並みに身分制度が緩いといっても、街中に王族が出てくるなんて危なすぎる。
「ランラドフだよ。今日は王族としてやって来てるんじゃないんだ」
「ですが」
「君は黙っていると、年端もいかない少女の様なのにね」
王弟殿下……ランラドフは、そう言って私の近くまで来て手の甲にキスをした。
「そんな事をする平民はいません」
「え? そうなの?」
ランラドフは、本気で驚いているようだった。いや、全くいないわけでは無いけど。
どうしよう……まさか、ボブの時の様に街に行って平民の言動を学んでこいとは、言えない。
「メグ、今日の予定は一日お店で……」
裏からダグラスが一日の予定確認をするためにお店に入ってきてランラドフに気が付いた。
即座に礼を執る。
「王弟殿下にはご機嫌麗しく存じ上げます」
「……いや、今日は王族として来たんじゃないんだ」
ダグラスからも礼を執られ、困った顔をしていた。そして、ふと思いついたように言う。
「ダグラス。今日一日、君のメグを借りても良いかな」
「私のものではございませんが、かまいませんよ」
だから何で、私の意志を無視するかなぁ。
「ダグラス、勝手に私を貸し出さないで……」
私は、かなりムスッとした顔をしていたのだろう。ランラドフは少し悲しそうな顔になって言ってくる。
「私……いや、僕と出歩くのはそんなに嫌かな?」
「いえ……そうじゃなくて」
「メグは、セキュリティの面を心配しているのでしょう」
ダグラスが、ランラドフに言う。殿下の機嫌を損ねないように……。
そして、ダグラスは私の横までやって来た。
「大丈夫だ、メグ。今この街は、護衛の騎士や兵士で溢れている。それにメグが街に出るのならその護衛に俺も交じるから安心して王弟殿下を案内しなさい」
また、保護者の口調になっている。ランラドフの前だから?
「わかったわ、着替えてくる。ダグラス、ボブが来るまで店番頼めるかしら」
「ああ。まかせとけ」
私は、裏に行ってクレアに予定変更を告げる。
ランラドフがお店に来ていることを告げると驚いてはいたが、着替えを手伝ってくれた。
お店に降りると、ボブとベンがランラドフに跪いていた。
私が来たのに気づくとサッと立ち上がる。ランラドフはダグラスにも目配せをしていたようだった。
「メグ、何て可愛らしいんだ。僕の為に装ってくれたんだね。さぁ、今日はどこに行こう。メグのお勧めは何だい?」
ランラドフは、大げさに褒めてくれる。あまり褒められたことが無かった私は気恥ずかしくて少し顔が赤くなった。
「あ……ありがとうございます。今日は、色々と街中を見てまわりたいのですが」
「ああ。そうだね、僕も平民らしく振舞えるように頑張るよ」
ニコニコと笑って言ってくる。なんだか、少し幼い感じもするけど。
ボブとベンとお店の事を少し打合せしてから私たちは出かけた。
少し離れてダグラスが付いて来ていたが、他の騎士たちに紛れてしまった。
「あっ、ねえねえ。この靴なんて君にピッタリじゃない?」
靴屋のショーウィンドーに並んでいる靴の一つを指してランラドフが言ってくる。
確かにシンプルで、どの服にも合いそうな靴だけど。
「ああ。あそこのお店の服と合わせて……、この扇子も」
ダメだ……目に入った物全て買いそうだこの馬鹿王弟は……。
「今日は買い物はしません」
「え? なんで?」
「今日は、ランラドフ様と街の様子をゆっくりと見てまわりたいです。だから、買い物はしません」
前世で子どもに言って聞かせた言葉だ。一度、折れて買ってしまったら、次からも買って良いことになってしまう。
案の定、ランラドフは戸惑っていた。今までは、買うために目の前に商品が並べられていたのだろうから。
「ランラドフ様はいくつになったのですか?」
「19……だけど」
「19歳。立派な大人ですわよね。子どもでも、もう少し聞き分けが良いですわよ」
ランラドフは、一瞬きょとんとした顔をしたけれど、嬉しそうに笑う。
「君は母上の様だね。僕の母上もそんな言い方をしていたよ」
お母様……って、前王妃様のこと?
前王妃様と同じだなんて、恐れ多い……。
「うん、分かった。今日は買い物をするのでは無く、市場調査だね」
…………ウインドーショッピングなのですけどね。