第6話 違和感
文字数 1,517文字
「えっ、どういうこと?あの女か?」
なるべく小声で俺が聞き返すが、もしそうだとしたら最悪のパターンである。顔どころが家までバレるとなると王手をかけられた詰み状態となる。
「わからん、気のせいかもしれない。でも上野と別れた後ぐらいから何回も視線感じてよ、振り返るたびに何かが隠れてる気がする。」
「人影とか見たのか?勘弁してくれよ、もう家の近くなんだぞ?さっきみんながいる時に言えよ。」
確かに片桐はチラチラ何度も後ろを気にしていた。まだ大女がつけてきているという確証はなかったが、このまま交番に駆け込みたい気分だった。
「さっきは大して視線とか気配を感じなかったんだよ。それ以前に気のせいかもしれないし。あんな事があったから俺も敏感になってるだけかも。でもなんか感じるんだよ、うまくいえないけど。」
「お前がそういう違和感を感じる時って結構当たってるんだよな…。怖いけどさ、いっその事俺も振り向いて二人で一気に確認してみるか。」
気のせいならそれが一番よかったので、俺は二人で同時に振り返ることを提案する。違和感を払拭するためには真実を確認する事が一番よかった。
今日はそのせいで散々な目にあった気もするが、音の正体を知る時は好奇心に突き動かされていたのに対し、今は振り向かねばならないという使命感があった。家を知られれば家族にも迷惑がかかる。
「いいぞ、あくまで普通に話してる風にして一斉ので突然振り向いてやろうぜ。」
「なんか今日は一斉ので見るのが多いな…なにもなければいいけど。」
夜になったとはいえまだ夏が縋り付く蒸し暑い気温と湿っぽい空気が身体にまとわりつく。俺たちは8月と9月の狭間に立っていた。無事帰り着いたらこの恐怖の夜は終わるはず。
「じゃあ行くぞ、いいな?」
片桐が静かに俺に尋ねる。準備はできているようだった。
「わかった、いっせいのーで!」
俺たち二人は一気に後方を振り向いた。目の前には住宅街から車がそれなりに通る大きな道路に抜ける細く長い道が一直線に続いている。それはいつもの見慣れた風景であり、数百メートル先の方まで街灯も点在しており、比較的明るかった。そしてそこに怪しげな人影が立ち尽くしてなどはいなかった。
「なにもいないな…。やっぱり勘違いだったのかな。」
「なら一番いい。ていうか全然人いないよなこの道。絶対気のせいだったんだよ。」
俺は自身と片桐に言い聞かせるように諭す。片桐の感じた違和感はなんだったのか、答えは俺たちの後ろにははっきりと目に見えては存在してなかったとわかり、一先ずは安心だ。
「気のせいか、やっぱり疲れてたからかな。」
そう言ってはいるがどこかまだ疑い深そうな顔をする片桐。まだ自分の感じた視線を探すようなそぶりを見せる。
「大丈夫だって。そうと分かったならもう帰った方がいい、家が一番安全なんだろ?」
「彼女がカンカンなんでな、それは間違いない。」
「てめぇやっぱり女が大事なんじゃねえか!」
呑気なことを言う片桐に俺が軽めのラビットパンチを喰らわせる。ハハハと高笑いしながら俺の手を払い除ける片桐には少し余裕が戻ったのか、歯を見せにやつく。
「じゃあ帰るわ。残りの数メートル気を抜くなよ。」
「ああ、また明日8時前にここでな。」
明日は久しぶりの登校だと言うことを思い出したかのように、片桐が切り出し俺たちは別れる。それぞれの家へ続く道を急ぐことにした。先ほどよりも足早になる、見慣れた近所の街並みがこんなに暖かく感じることになるなんて。
気がつけばもう、我が家が目の前に迫っていた。
なるべく小声で俺が聞き返すが、もしそうだとしたら最悪のパターンである。顔どころが家までバレるとなると王手をかけられた詰み状態となる。
「わからん、気のせいかもしれない。でも上野と別れた後ぐらいから何回も視線感じてよ、振り返るたびに何かが隠れてる気がする。」
「人影とか見たのか?勘弁してくれよ、もう家の近くなんだぞ?さっきみんながいる時に言えよ。」
確かに片桐はチラチラ何度も後ろを気にしていた。まだ大女がつけてきているという確証はなかったが、このまま交番に駆け込みたい気分だった。
「さっきは大して視線とか気配を感じなかったんだよ。それ以前に気のせいかもしれないし。あんな事があったから俺も敏感になってるだけかも。でもなんか感じるんだよ、うまくいえないけど。」
「お前がそういう違和感を感じる時って結構当たってるんだよな…。怖いけどさ、いっその事俺も振り向いて二人で一気に確認してみるか。」
気のせいならそれが一番よかったので、俺は二人で同時に振り返ることを提案する。違和感を払拭するためには真実を確認する事が一番よかった。
今日はそのせいで散々な目にあった気もするが、音の正体を知る時は好奇心に突き動かされていたのに対し、今は振り向かねばならないという使命感があった。家を知られれば家族にも迷惑がかかる。
「いいぞ、あくまで普通に話してる風にして一斉ので突然振り向いてやろうぜ。」
「なんか今日は一斉ので見るのが多いな…なにもなければいいけど。」
夜になったとはいえまだ夏が縋り付く蒸し暑い気温と湿っぽい空気が身体にまとわりつく。俺たちは8月と9月の狭間に立っていた。無事帰り着いたらこの恐怖の夜は終わるはず。
「じゃあ行くぞ、いいな?」
片桐が静かに俺に尋ねる。準備はできているようだった。
「わかった、いっせいのーで!」
俺たち二人は一気に後方を振り向いた。目の前には住宅街から車がそれなりに通る大きな道路に抜ける細く長い道が一直線に続いている。それはいつもの見慣れた風景であり、数百メートル先の方まで街灯も点在しており、比較的明るかった。そしてそこに怪しげな人影が立ち尽くしてなどはいなかった。
「なにもいないな…。やっぱり勘違いだったのかな。」
「なら一番いい。ていうか全然人いないよなこの道。絶対気のせいだったんだよ。」
俺は自身と片桐に言い聞かせるように諭す。片桐の感じた違和感はなんだったのか、答えは俺たちの後ろにははっきりと目に見えては存在してなかったとわかり、一先ずは安心だ。
「気のせいか、やっぱり疲れてたからかな。」
そう言ってはいるがどこかまだ疑い深そうな顔をする片桐。まだ自分の感じた視線を探すようなそぶりを見せる。
「大丈夫だって。そうと分かったならもう帰った方がいい、家が一番安全なんだろ?」
「彼女がカンカンなんでな、それは間違いない。」
「てめぇやっぱり女が大事なんじゃねえか!」
呑気なことを言う片桐に俺が軽めのラビットパンチを喰らわせる。ハハハと高笑いしながら俺の手を払い除ける片桐には少し余裕が戻ったのか、歯を見せにやつく。
「じゃあ帰るわ。残りの数メートル気を抜くなよ。」
「ああ、また明日8時前にここでな。」
明日は久しぶりの登校だと言うことを思い出したかのように、片桐が切り出し俺たちは別れる。それぞれの家へ続く道を急ぐことにした。先ほどよりも足早になる、見慣れた近所の街並みがこんなに暖かく感じることになるなんて。
気がつけばもう、我が家が目の前に迫っていた。