第19話 特攻ーアナザーサイドー
文字数 1,541文字
始業式中も私の気分は優れなかった。校長が不審者どうのこう言っているがそれどころじゃない。だってクラスの中に不審者がいるのに。みんなそれを受け入れている。
私はクラスの女子の中で3番目に背が高く、背の順になるとかなり後ろにいたので、前方にいた柚子が隣の列にいる永瀬君に心配そうに話しかけているのが見える。
クラスの中では片桐君と並んで中心人物の彼だが、その元気の良さは鳴りを潜め貧血気味なのか少しフラついているようだった。私もここでぶっ倒れて保健室にでも担ぎ込まれたい気分だ。
それから部活で優秀な成績を収めた者が賞状を受け渡される時間になり、やっと座ることが出来た。これはありがたいけど、早く帰りたかったので手早く行って欲しかった。
ついでに言うと美術部で描いた私の力作は何の賞にもカスリもしなかったので、心底どうでも良い時間が流れる。
例の少女、渡霞の詳しい様子はよくわからないが私より5人ほど前に大人しく座っているようだ。
賞状の授与が終わると、今度は生活指導の戸口先生が壇上に上がりなにか話始める。申し訳ないが話を聞く気力は一切残っていなかったので、ずっと俯いていたがその間に話が終わっており体育館から退出する流れになった。
そこからはあまり記憶がないが、始業式が終わると教室に戻り茫然自失と自分の席に座っていた。
「ねぇ、環。聞いてるの?大丈夫?」
ハッとなって前を向くと柚子が心配そうに私に話しかけている、いつの間にか前の片桐君の椅子を拝借して座っていたのに気づかなかった。
「大丈夫だよ、ちょっと寝不足で。」
適当な言い訳を頭の中から手繰り寄せる。
「そうなの?放心状態みたいになってたよ。」
そりゃ知らないクラスメイトが一人増えていたら放心状態にもなるでしょ、と喉まで出かかるがぐっと堪える。
「ちょっと具合悪いみたい。ごめんね、でも大丈夫だから。」
「えぇ、本当に大丈夫なの?顔色も良くないからそうだと思った。保健室行く?」
「ううん、もうすぐ帰れるはずだから大丈夫だよ。ありがとう。」
心配してくれる優しい彼女には申し訳なかったが、今はそっとしておいて欲しかった。そして保健室ではなく出来れば脳外科に連れて行ってくれとも思った。私の頭はおかしくなってしまったのか。
「ならよかった。今日は早く帰ってゆっくりしてね。」
「ありがとね、少し楽になったかも。」
柚子はどんな人間にも対等に接し、気遣いのできる聖母のような存在だった。小学三年生で初めて仲良くなってから、彼女の優しさに何度救われたことか。将来は看護師になりたいと言う夢を持った現代のナイチンゲールのような彼女だが、クラスメイトの中に柚子に惚れ込んでいる男子生徒がいることも知っている。そっとしておいて欲しいとも思ったけど、今は柚子の優しさに甘えよう。
机にうつ伏せになり、柚子に頭を撫でられていると突然教室後方の扉が勢いよく開かれる。
いきなり何事かと振り向くと、佐野修平を筆頭にクラスの男子たちがゾロゾロと教室に入ってくる。みんな顔がどこか強張っており、緊張しているのか物々しい雰囲気を感じた。
すると佐野修平が先陣を切り、窓辺で本を読んでいた渡霞の元へずかずかと向かっていく。
「お前誰だよ。」
開口一番、乱暴に飛び出した言葉に私は度肝を抜かれた。その声がそこそこ大きかった為、クラス中がしんとするが、同時に私はある種の安堵を覚えた。ずっと言いたかった言葉がまさかの人物から飛び出す。
佐野君、もしかしてあなたと私が見ている世界は同じなの?見守ることしかできないけど、今確かにあなたに共感している人間がここにいるよ。