冒険者ギルド
文字数 1,041文字
昼食時の殺人的な忙しい時間は少し前に終わった。ホールのスタッフたちは遅めの昼食を隅のテーブルで取り始めている。
カレタカは奥の部屋から出てきて、かすかに昼の熱気が残る部屋を見渡した後、受付のカウンターへと向かった。
カウンターにいるのは、いつも笑顔を絶やさないミレーアだ。
特別に美人というわけではないのだが、親身になって話を聞いてくれるということで人気のスタッフだ。
ここはこの町のギルドの建物だ。安価な食事も提供しているので、食事時は持ち金を減らしたくない冒険者たちで溢れかえる。
カレタカはこのギルドのマスターだ。
暗い金色をした猫っ毛のせいで頭はいつもボサボサしている。顔立ちは整っており、声もイケメンボイスだ。彼に声を掛けられた女性は、まず嫌な顔をすることはない。
年の頃は二十代後半に見えるのだが年齢は不詳だ。ギルドマスターという地位は若年者がなれるほど軽いものではないので、こう見えてかなりの年ではないかと噂する者も多い。
それに付随して、かつては超一流の冒険者だったとか、実は伝説のドラゴンを倒したパーティーメンバーの一人だったとか、ここだけの話だが王家の血筋なのだとかいろいろと言われている。
雰囲気を壊さないようにそっとドアが開いた。
それに気が付いたのはカレタカだけだ。
ドアに体を半分隠すように立っている少女を観察する。
黒い髪は肩にかかるぐらいのところで綺麗に揃えられている。
服装はこの世界ではあまり見かけない紺色の『セーラー服』だった。スカートの丈は膝上あたり。
ギルド内に足を踏み込む勇気がないのか、少女は入口で固まっていた。
いきなり声を掛けられて混乱をしている――のではない。
現地の人間から『日本語』で話しかけられたので驚いているのだとカレタカは理解していた。
恐る恐るという様子で少女がギルドホールへと足を踏み出す。
靴は『黒の革靴』だ。これもこの世界で見るものではない。
再びカレタカに声を掛けられた少女は、ゆっくりとカウンターまでやってきた。