尻ぬぐい
文字数 1,568文字
ミトロは誰のことかと記憶を漁り、ある男の顔が思い浮かぶ。
そういえば、ミトロのかつてのクラスメイトである彼女も魔王の一人だったのだ。
アーガルの右手が一閃される。
次の瞬間、腕を振った高さの空間がズレた。
ここが結界でなければずっと先まで切断されていただろう。
幸い、アーガルが張った結界のおかげで外には影響が出ていない。
アーガルの右の手のひらが上を向くと、そこにグラスがあった。
さらに何もない空間から赤い血のような液体が注がれてグラスを満たす。
ミトロは乾いた唇を舐めながら問いかける。
目の前の存在はフェアリーアイを持ち、人間界最高峰の精霊魔法使いであるミトロよりも強い。
冒険者を引退して久しいとはいえ、現役のトップクラスにも実力は引けを取らない自信はあった。
だが先ほどの攻撃を認識できなかった以上、アーガルの実力は自分よりも上であると認めざるを得ない。
だがここにはカレタカがいる。
カレタカならばなんとかしてくれる。
そういう無条件な信頼をミトロは持っている。
カレタカが一歩前に踏み出す。
その瞬間、アーガルが後方へ飛び退った。
急激な変化にミトロは目を瞠る。
ただカレタカは距離を詰めようとしただけだ。たったそれだけの行動にどうしてこうも大げさな反応をする必要があったのか。
首が落ちる。
重い水音を立てて地面にアーガルの頭が転がる。
数瞬後、首のない体がうつ伏せに倒れる。