二人の夕食
文字数 1,515文字
本来、このギルドではギルドカードを持っていない者や高レベルの冒険者は食事ができない。しかし何事にも例外はある。
たとえばギルドのスタッフは自由に食事をすることができるし、またその知り合いも許可を取れば許されている。
ワイングラスを揺らしながら香里がつぶやく。
彼女たちはクラス単位でこの世界へ転移してきた。
その際、種族や職業、技能を選択することができたのだ。
佳代は古エルフ、香里は魔王という本来ならば選べなかったはずの種族をシステムの隙をついて選択した。
転移時にチート能力を与えられようとも、何も知らない世界に放り出されて生き抜くことは難しい。
夜盗やモンスターに襲われて命を失った者もいれば、謎の病で命を落とした者もいる。
困難を生き抜いて天寿を全うした者もいたが、それはごく少数だった。
この世界へ転移したクラスメイトで生き残っているのはもはや佳代と香里しかいない。
エルフならば人間との間に子供を授かることができるのだが、ほぼ妖精の古エルフは同じ古エルフとしか子をなすことができない。
人間界に姿を見せる古エルフはまずいないので相手を見つけるどころではなかったという言い訳を佳代は自分にしていた。
そういえばあの人はどうだったの? 同じパーティーにいた、いい感じの男の人。声とかよかったよねぇ。まるでイケメンボイスの声優みたいだった』
フォークがすっと入る肉の柔らかさ。口に入れると適度な噛み応えがあり、噛むごとに肉汁があふれ出る。
そしてなによりこのワインに合っていた。