二人の夕食

文字数 1,515文字

 本来、このギルドではギルドカードを持っていない者や高レベルの冒険者は食事ができない。しかし何事にも例外はある。

 たとえばギルドのスタッフは自由に食事をすることができるし、またその知り合いも許可を取れば許されている。

『じゃあ、久しぶりの再会を祝して、かんぱーい!』
 血のように赤いワインの入ったグラスを触れ合わせる。
『あら、これ美味しい』
『でしょでしょ。実はね、最近の魔界は空前のワインブームなの。ほら、魔界って土地が痩せてるでしょ。だからワイン用のブドウもいい感じのがとれてワインのデキもいいのよ、これが。なんだったら人間界に輸出しようか?』
『さすがにそれは……ちょっと考えさせて』
 この芳醇な香りと味のワインが飲めるのならば魔界との交易を真剣に考えてもいいのではないかと思ってしまう。
『上の人と相談してみてよ。別にお金儲けがしたいわけじゃないし。あと人間界の経済を破壊したいわけでもないからね。純粋に、佳代ちゃんにもわたしが作ったワインを飲んでもらいたいなって思ってるだけだから』
『……ありがとう』
『結局、今日まで生きてこられたのは、わたしと佳代ちゃんだけなんだよね……』

 ワイングラスを揺らしながら香里がつぶやく。


 彼女たちはクラス単位でこの世界へ転移してきた。

 その際、種族や職業、技能を選択することができたのだ。


 佳代は古エルフ、香里は魔王という本来ならば選べなかったはずの種族をシステムの隙をついて選択した。


 転移時にチート能力を与えられようとも、何も知らない世界に放り出されて生き抜くことは難しい。

 夜盗やモンスターに襲われて命を失った者もいれば、謎の病で命を落とした者もいる。

 困難を生き抜いて天寿を全うした者もいたが、それはごく少数だった。


 この世界へ転移したクラスメイトで生き残っているのはもはや佳代と香里しかいない。

『そういえばさ、佳代ちゃんは結婚しないの?』
『できるわけないでしょう。そもそも相手がいないわよ』

 エルフならば人間との間に子供を授かることができるのだが、ほぼ妖精の古エルフは同じ古エルフとしか子をなすことができない。

 人間界に姿を見せる古エルフはまずいないので相手を見つけるどころではなかったという言い訳を佳代は自分にしていた。

『別に子供を作らなくてもいいでしょ。いっしょにいたらうれしいとか楽しい人とだっていいじゃない。どうせ生涯は共にできないんだし。

そういえばあの人はどうだったの? 同じパーティーにいた、いい感じの男の人。声とかよかったよねぇ。まるでイケメンボイスの声優みたいだった』

『わ、私のことよりも香里はどうなのよ。魔王なんて大変なんでしょ?』
『あー、そうだねぇ。でも高校生の頃とあんまりかわらないかも。好きな子もいれば嫌いな子もいるって感じだし』
『そうなんだ。ならいいけど』
 二人の会話が途切れたところで、ウェイトレス姿をした京子がテーブルまでやってくる。
こちらはギルドマスターからお二人へとのことです
 フランス料理のように美しく盛られたお肉だった。
これ、カレタカさんのお手製だ。あとでお礼を言っておかないと……
ありがとう。お土産のワインは喜んでもらえたかな?
はい。とても美味しかったそうです

 フォークがすっと入る肉の柔らかさ。口に入れると適度な噛み応えがあり、噛むごとに肉汁があふれ出る。

 そしてなによりこのワインに合っていた。

『美味しい……このお料理を作った人すごいなぁ。魔界に連れ帰って毎日作ってもらいたいなぁ』
『それはダメ』
『そっかー。佳代ちゃんの思い人を取るわけにはいかないもんねぇ』
『げほっ、ごほ、ごほ……』
 久しぶりに再会した親友同士の夕食はとても楽しそうだった。
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登場人物紹介

カレタカ

ギルドマスター。過去の経歴は謎だが、ギルドマスターとして信頼されている。

暗い金色をした猫っ毛のせいで頭はいつもボサボサだが造形は悪くない。イケメンボイスの持ち主。

ミレーア

ギルドスタッフ。笑みを絶やさない受付係。

特別に美人というわけではないが、親身になって話を聞いてくれるので人気らしい。

キョウコ

ニホンの女子高生。ウェイトレスでバイト経験あり。ギルドスタッフとして就職した。

マレスコ

スカウトの冒険者。特定のパーティーには所属していない。なかなかの腕の持ち主。

パルメ

ファイターの冒険者。特定のパーティーに所属していない。面倒見のいい女性。

ケンジ

ニホン人だったがわけあって裏稼業に身をやつしていた。現在は冒険者として活動をしている。

マサアキ

ニホンの学生。ネットでいろいろと知識を蓄えていたらしい。そんな事前準備をするよりも先に何かしておくべきではなかったかとか言ってはいけない。意外に手先は器用で頭は回るもよう。本人としてはコミュニケーション能力もあるとのこと。

ケンイチ

ニホン出身。大のメイド好き。大の前にあと3つぐらい形容が必要かもしれない。彼のパーティーメンバーは全員、メイド服を着ている。

カヨ(ミトロ)

ニホンの女子高生。クラスメイトとともにこの世界へやってきた。種族選択で珍しい古エルフを選んでいる。最高峰の精霊使いフェアリーアイとしても知られる。現在はギルドスタッフとして働いている。

カオリ(グレンフォレス)

ニホンの女子高生。カヨとはクラスメイトだった。種族選択で魔王を選んだ魔界を統べる魔王の一人。

アーガル

魔界の住人で魔将軍の一人。

ロセス

ギルドスタッフの一人。カワイイ。

ラクリマ

ニホンから来た女性。現在はギルドスタッフとして働いている。コイバナ大好き。

ツェラー

パーティー〈神速の燕〉のリーダー。憧れの冒険者をまねて腰から二本の剣を下げているが、未熟ゆえに一本の剣だけで戦っている。まだ駆け出し。

コレル

パーティー〈神速の燕〉に所属するプリースト。幼い頃に熱病にかかったことで信仰に目覚めた。落ち着いた物腰だが冒険者としてはまだ駆け出し。

クルーガー

パーティー〈神速の燕〉に所属するスカウト。弓が得意。パーティーの耳と目を担当しているがまだ駆け出し。

エムリヒ

パーティー〈神速の燕〉に所属するソーサラー。祖父は爆炎系の魔法が得意だったクロイツナハで彼に師事していた。まだ駆け出し。

ジョルジュ

パーティー〈黄金の盾〉のリーダー。実家は裕福な商家で冒険者になるにあたりいろいろと援助をしてもらっている。立派なプレートメイルはその一つ。まだ駆け出し。

シュウジ

ニホンの学生。現在は実力のあるメンバーと冒険者をしている。なお、全員、シュウジよりもレベルが高い。

アキラ

ニホンのサラリーマン。ビール大好き。

レゼルバ

槍の使い手であるパーティーのリーダー。少し言葉に訛りがある。まだ駆け出し。

ク・ホリイ

ニホン出身。槍の使い手としてはこの世界でも上位にある。

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