幻の一品
文字数 767文字
その料理がテーブルに置かれたとき、少年は我が目を疑った。
それから配膳してくれたスタッフに醤油を要求し、いつもの分量だけかけ入れる。ドンブリの大きさにもよるが、およそ一周半。ちゃんと体が覚えている。これがベストの量だった。
しっかりとかき混ぜる。
卵の黄金色とご飯の真白色のコントラストが失われ、醤油の黒と混じりあって飴色に変化していく。
このとき米を潰してはならない。切るようにしてよくかき混ぜるのがポイントだ。
できた。
もう二度と口にすることはないと思っていたものが目の前にある。
両手を目の前であわせ、万感の思いを込める。
右手にハシを、左手にドンブリを持つ。
目をつむると炊き立てのご飯と卵、そして醤油のかぐわしい香りが混然一体となり、たまらない気持になる。
カッと目を見開いた。
そして猛然とした勢いでかき込み始める。
同じテーブルに座っている三人は全員が目を見張るような美人なのだが、少年の食事をそれぞれの表情で眺めていた。
っていうか、それって泣くようなことなの? あんたが泣いたところみたことないんですけど。
だから泣きながら食べないでってばっ