戦闘
文字数 1,019文字
声は聞こえていたが、マサアキの体は思うように動いてくれなかった。
かざした盾にさらに圧力がかかる。押し返そうと思ったが力は五分五分かやや相手の方が上だ。両足を踏ん張って耐えないと押し切られかねない。
こんなことなら下半身を鍛えるためにもっと走っておくべきだったと後悔の気持ちがわいてくる。
下半身だけではない。上半身の筋力も足りていない。
剣、盾、防具。冒険者ギルドから借りた装備は自分の力量にあっていない。見た目重視で選んでしまったからだ。
剣は余計な装飾が入っているせいで重いし、盾も見栄を張りすぎて大きすぎる。防具は要所を守っているだけで軽量だが守られていないところにかすっただけで悲鳴を上げるぐらい痛い。
何もかも間違っていた。
はっきり言って冒険者を舐めていた。
それを今更ながら思い知らされる。
マレスコが強引にマサアキとモンスターの間に割って入る。
大振りのナイフが武器をはじき、火花を散らした。
その動きでターゲットをマサアキからマレスコに変えたらしい。
一瞬の隙をついてマレスコはマサアキの首根っこを掴むと思い切り後ろへ引っ張った。
バランスを崩したマサアキはごろんとひっくり返る。
すかざすマサアキが抜けた場所にパルメが入って戦線を維持する。
マレスコの罵声に何も言い返せない。
荒い呼吸を繰り返すだけで精いっぱいだった。
なんとか起き上がろうとするのだがうまくいかない。
足に力が入っていない。自分がどんな姿勢なのかすらわからなかった。
天井が見ているということは寝転んでいるのか?
手はどこだ?
足は地面についているのか?
ようやく自分が仰向けに倒れていることを認識できた。
手をついて上体を持ち上げる。
膝に力を入れてやっと立ち上がることができた。
右手に剣、左手に盾。
大丈夫、どこにも目立つ傷はついていない。
小さい呼吸を繰り返す。
ちっとも肺の中に空気が入ってこない。
目の前ではマレスコとパルメが半包囲しようと迫ってくるモンスターたちを相手に一歩も引かない戦いをしていた。
二人の背中は冒険者のそれだ。
自分とは違う。
今になって体が震えてくる。