墓参り
文字数 906文字
町の中心部からは少し離れた小高い丘にギルドの受付をしているミトロが立っていた。
周りには規則正しく石が敷き詰められている。
整然とどこまでも続いていた。
私服姿のミトロは一つの石の前に立つ。
足元の石には複数の名前が彫られていた。
ここは共同墓地だ。
朽ちた肉体や火葬された灰が埋められているわけではない。ただ死んだ人を忘れたくない人が名を記しておく場所だった。
しゃがんだミトロは石の周囲の雑草を抜いていく。
ここには墓守もいるのだが、彼は個々の墓の管理まではしていない。
もちろん個別にメンテナンス費用を払っているのならば話は別だ。
墓守の主な仕事は墓を守ることだ。清掃することではない。
死者が生前に使っていた貴重品が一緒に埋葬されることもあるので、それを狙った不届き者を取り締まる。
この世界では日本のように春秋のお彼岸、お盆、命日などといった定期的な墓参りをすることはない。
墓参りをする人が行こうと思ったときにだけ行く。
いつまでも墓参りに行かずに放っておくと墓石の周辺が草で覆われてしまう。だから墓の関係者がたまにやってきて掃除をしたりする。
そして定期的に墓参りをする習慣を持っているのは日本から転移・転生してきた者だけだった。
ミトロもそんな習慣を持つ一人だ。
一通り目についた雑草を抜くと、持ってきた布で墓石を拭く。
このあたりは乾燥した気候のおかげか、汚れはすぐに落ちてくれる。
それから持ってきた花を墓前に添え、両手を合わせてお祈りをする。
最初の頃は手を合わせるのは違うのかもしれないと思っていた。だが自分がなじむ形でするのが一番いいと思い、墓前で手を合わせるようにしている。
日本にいた頃にも年に何度か家族で墓参りに行っていたが、面倒で本当は行きたくなかった。そんなことより友達と遊びに行ったりしたかったのだ。
そんな自分がどういう風の吹き回しなのだろうと思わなくはない。
ミトロの口元に寂しげな笑みが浮かぶ。
サクサクと地面を踏みしめる音に顔を上げた。