撤退
文字数 1,108文字
さっきからガチガチとうるさいと思ったら、自分の歯の根が合わずに音を立てていたことに気が付いた。
ぐっと奥歯を噛みしめると今度はアゴが震える。
その振動は首、肩、胸、腹、腰、足と伝わっていく。
ガタガタと全身が震えていた。
今にも手にした剣と盾を投げ捨てて、後ろを向いて逃げ出したかった。
二人は戦いながら指示を出してくれる。
けれどマサアキはそれに応える余裕がなかった。
完全に右から左に声が抜けている。
顔を上げる。
ちょうどパルメの剣が敵の頭をかち割ったところだった。
びしゃりという水音がしたかと思うと、体から力が抜けたモンスターの体が崩れ落ちる。
二人の言葉にはマサアキを責めるような色は含まれていない。
ただ今必要なことだけを最小限のやり取りですませている。
ベテランの域にある二人は互いの次の行動を予測して位置を変える。
ファイターのパルメが殿を務め、スカウトのマレスコが先導する形になる。
当然パーティーの最後尾となるパルメは危険だが、このレベルのモンスターであれば問題はない。そこまで考慮に入れたうえでの判断と行動だった。
大切なことはパニックになっているマサアキをいかにして無事に地上へ連れ帰るかというのを二人は理解している。
声が裏返っている。
そのことを自覚して、こんな状況だというのにマサアキの顔が朱に染まった。
しゃがんだマレスコは敵の足を斬りつけ、パルメは盾の大きさを利用して敵を押し返した。
これで三人とモンスターたちとの間に距離ができる。
マレスコがすれ違いざまにマサアキの肩を叩いていく。