襲撃者
文字数 827文字
女の悲鳴。そして男の抑えられた声だった。
右手側の細道の先から聞こえてきた。
パルメは腰の剣をすでに抜いている。
カレタカが頷くと、パルメは通路に向かって走り出した。
足音が遠ざかっていく。
一人だけ裏通りに残ったカレタカが誰もいないはずの空間に声をかける。
ゆらりと黒い影が姿を現す。
カレタカは丸腰にも関わらず余裕の表情だった。
カレタカが言い終わる前に影が何かを投擲する。
同時に黒い刃を抜いて距離を詰めるために影が一歩を踏み出す。
カレタカは投げナイフをかわそうともせずに前に出たかと思うと、距離を詰めようとした影の一歩目が地面に着く前に鳩尾へ左手の一撃をくらわせる。
影の身体がくの字に折れ曲がる。
前に出ながら掴んでいた投げナイフを頭上へと放る。
くぐもった声がしたかと思うと、どさりという重い音と共に何かが落ちる。
崩れ落ちた方はピクリとも動かない。
即効性の毒が刃に塗られていたのだ。
影は逃げ出そうとする。
地面を蹴ろうとした右足の甲をカレタカが踏み抜く。
骨が砕け、腱が千切れる嫌な音がする。
影がバランスを崩して左足をついたところにカレタカのローキックが見舞われる。
大腿骨を蹴り折られた影は壁に叩きつけられた。
影の身体からはしゅうしゅうと湯気のようなものが立ち上っている。
カレタカは影の前に座り込むと、がっちりと右手で顎を捕まえる。
これでは舌を噛んで死ぬこともできない。