結界
文字数 758文字
隣に立ったカレタカに場所を譲るようにミトロが立ち上がる。
墓石の正面に立ったカレタカは黙とうを捧げた。
そんなカレタカの姿を見ながら、この世界ではこういうのが普通の墓参りなのだろうなとぼんやりと思う。
しんみりとした声だった。
それでもいい声をしているなとミトロは思う。
ミトロは精霊魔法の優秀な使い手だ。
エルフたちは幼い頃から精霊と共に生きている。
しかもミトロは古エルフだ。その親和性はエルフの比ではない。
エルフが精霊魔法を使う時は精霊語を使って精霊に力を貸してもらうように依頼をしなければらならない。それがいわゆる精霊魔法の呪文だ。
もちろん、その場に精霊がいなければ力を借りることはできない。
火がないところにサラマンダーはいないし、水が近くになければウィンディーネの力は使えないわけだ。
精霊魔法の使い手は、その場にいる精霊に働きかけ、どういう力を発揮してほしいのかを精霊語で頼み了解を得ねばならない。
精霊界から人間界に介入して改変を実現すること。
世界の改変とは魔法の実現だ。
それが精霊魔法の本質である。
しかし古エルフであるミトロに依頼の文言は必要ない。
ミトロはそこにいる精霊に指示するだけで世界を改変することができる。
いきなり周囲の雰囲気が変化した。
その変わり方は劇的で、この世界で有数の精霊魔法の使い手であるミトロですら事前に感知をすることができなかったほどだ。