第三十八話「準備」
文字数 1,355文字
招待状係を務めたエリーは、祭りの準備はやらなくてもいいことになっている。しかしそれでは落ち着かない。いつもより賑やかになっている街並みを見て、エリーはそわそわしていた。リヒトもわくわくしているかのように窓の外を眺めている。昼食の準備を済ませ、そして部屋にいるウィリアムに声を掛ける。ウィリアムは最近ずっと部屋に閉じこもっているが、大丈夫だろうか。そんなことを思いつつ、エリーは昼食をリヒトと食べ、そして街へと出ていった。
街の飾り付けをしている人もいれば、屋台の準備をしている人もいる。エリーは目についたところからどんどん手伝いをしていく。お礼と言ってくれるものは大半が食べ物のため、リヒトも積極的に手伝おうとしている。
駅の近くへたどり着くと、そこにはリザとテオの姿があった。
「こんにちは」
エリーが声を掛けると、二人は全く同じような仕草で驚いたように振り向いた。
「こんにちは、エリー」
「おっす」
にこやかな二人に、エリーも笑いかける。
「お二人もお祭りの準備ですか?」
「ええ。もちろん。私も店を出すのよ」
「そうなんですね」
腕を組み、胸を張るようにしてふふん、と笑う。
「当たり前でしょう。この街で最も優れた喫茶店をやっているのよ」
「最も優れてるかどうかは別として、食いもんと飲みもんを提供するつもりなんだ」
テオがリザの態度に呆れたように苦笑する。
「何を出されるんですか?」
「ベビーカステラと、うちのブレンドの紅茶メインで色々な飲み物を出すつもりよ」
得意気に言うたけあって、確かに美味しそうだ。エリーとリヒトは目を輝かせる。
「わぁ、いいですね」
「屋台の見た目にもこだわるつもりよ。他の都からもたくさんの人が来るもの。お粗末なものは出せないわ」
「意識高ぇよな」
「うるさいわね」
「そうなんですね……もしかして、リザさんのご家族の方も来られるんですか?」
エリーの問いに、リザが視線を落とす。
「それは……どうかしらね。忙しそうだからわからないわ。でも帝都の人もたくさん来るんじゃないかしら」
「帝都の……」
「ええ。帝都にはそういうお祭りのようなものはないから、結構来るんじゃない?」
エリーは今までの祭りのことを思い出しながら、続ける。
「そうなんですか。今までも知らないうちに帝都の方とすれ違ったりしていたのでしょうか」
「してたかもな。どうせ祭りの日は大体の奴が着飾るし、見分けなんてつかねぇよ」
「ふふ、それもそうですね」
談笑をして、一段落ついたところでリザが切りだした。
「じゃあ私たちはそろそろ準備をしなくちゃ」
「あ、それなんですが」
「ん?」
不思議そうな顔をするリザとテオに向かって、エリーが握りこぶしを作ってキリッとする。リヒトもまた同じ表情と仕草をして二人を見つめる。
「私もお手伝いします!」
その言葉に、二人は顔を見合わせる。
「あら、本当?」
「ははっ、一緒に働いてた頃を思い出すな!」
二人の返答に、エリーは楽しそうに笑った。
「ふふ、よろしくお願いします」
「仕方ないわね。行くわよ」
「はいっ」
「おう」
三人は祭りの準備をするべく、歩き出した。