第四十七話「決心」
文字数 989文字
エリーは街を歩いていた。風の都、ヴィルベル。爽やかな風に吹かれながら、のんびりと歩いていく。初めは不安だらけだったが、もう随分と見慣れた街となっていた。リヒトのためによく行っていたお菓子屋さん。優しいおじいさんのいるおもちゃ屋さん。よく気にかけてくれていた時計屋さんのおじさん。フランメのガラス製品のある雑貨屋さん。広場に堂々と佇む噴水。いつも賑やかな駅前。風の気持ちいい風車の建つ草原。
いつも見ている景色を、ひとつひとつ、確認していくように見ていく。
「あれ、エリー」
聞き覚えのある声。前を向くと、テオがいた。
「テオさん」
「久しぶりだな」
「そうですね」
嬉しそうな表情のテオ。エリーはにっこり笑って答える。
「なぁ、もし時間があったら店来いよ」
「ふふ、そうします」
「おれ今買い出し中だから、すぐには戻れないんだけどさ」
テオの言葉に、エリーは笑って頷く。そして、テオの言葉通り、リザの店へ行くことにした。
「あら、エリー」
「リザさん、こんにちは」
「来てくれたのね。久しぶりじゃない?」
「そうですね」
テオと似たようなことを言うリザに、思わずクスッと笑ってしまう。
「新作のケーキがあるのよ。カフェオレも淹れるわ。だから、ゆっくりしていきなさい」
柔らかい表情でそう言うリザ。エリーは頷き、ケーキとカフェオレを堪能することにした。もしここにリヒトがいたら、きっとすごく喜ぶに違いない。そんなことを考え、エリーは目を伏せた。
泉にも行こうと足を進めたが、エリーは直前で立ち止まった。もしリヒトに会えなかったら、もしリヒトがまだ苦しんでいたら。そんな光景を直視することなんてできない。震える手を押さえる。エリーは引き返し、海へと向かった。
海にはいつものように誰の姿もなかった。ウィリアムも今は家で筆を進めている。エリーとしての生活が始まった場所。今の自分にとっての全てが始まった場所。その景色を目に焼き付け、エリーは目を閉じた。潮の香りが鼻をくすぐる。自身の髪が風になびくのを感じる。エリーは目を開け、海の向こうを見つめた。今まで逃げてしまっていたが、そろそろエリーは記憶と向き合わなくてはならないと感じていた。風の音が、エリーを包み込んでくれた。
ウィリアムと共に、ティーナと話そう。そして――真実を知ろう。