第十二話「帰り道」
文字数 1,208文字
駅に辿り着くと、エリーとウィリアムはアンナとダニエルと向き合った。
「じゃあ、私達はここまでね」
「どうもありがとうございました」
「いえいえ。楽しかった?」
「はい!」
アンナとダニエルはどこかへ行く用事があるらしく、ここでお別れだ。笑顔で手を振るアンナと微笑むダニエルに見送られながら、エリーとウィリアムは列車に乗り込んだ。
ウィリアムが大きく欠伸をすると、エリーは首を傾げて見上げる。
「お疲れですか?」
「あぁ」
「風の都に着いたら起こしますよ」
「いい。起きてる」
再び大きな欠伸をしながら言うウィリアム。寝るな、これは。
席に向かい合って座り、列車が動き出す。楽しく過ごした火炎の都が遠ざかっていく景色を見て、エリーの胸に寂しさが募る。
行く時はアンナとダニエルのやり取りで賑やかだったが、帰りは静かだった。エリーもウィリアムも黙って窓の外を見つめている。リヒトも疲れているのか、ぼーっと窓枠に座っている。
すると突然、がこんという音と共に列車が止まった。リヒトが前方に転がり、エリーは不思議そうに列車内を見回す。
鐘の音が列車内に鳴り響き、列車の不具合を知らせる声が聞こえた。
「不具合ですか」
「……そうみたいだな」
ウィリアムが眉間にしわを寄せて頭をおさえる。火炎の陣に間に合うようにウィリアムは小説を書いていたようで、疲れも限界なのだろう。エリーは申し訳なさそうに眉を下げた。
「ウィリアムさん、眠ってください」
「……大丈夫だ」
「ダメです。眠ってください」
譲らないエリーの口調にウィリアムは意外そうにエリーを見た。そして諦めたようにふっと笑った。
「……わかった」
エリーは安心したように口元に笑みを浮かべ、膝元をぽんぽんと叩いた。
「よろしければ、どうぞ」
「……」
「ウィリアムさん?」
黙り込むウィリアムにエリーは不思議そうに首を傾げる。リヒトはエリーに呆れた視線を送っている。
「……正気か」
「座ったままだと疲れが取れないかと思ったんですが……」
「……」
しばらく二人は無言で見つめ合う。そしてウィリアムは深くため息をつき、ゆっくりと立ち上がった。エリーの隣に座ると、ウィリアムは再びため息をつく。
「……大丈夫ですか?」
「あぁ」
困ったように頭を掻き、ウィリアムはエリーに視線を送る。
「じゃあ、頼む」
「はいっ」
ウィリアムがエリーの膝に頭を乗せる。すると、数分も経たないうちに寝息が聞こえだす。よほど疲れていたのだろう。
エリーは微笑んで起こさないようにウィリアムの頭をゆっくりと撫でる。リヒトはその光景を羨ましそうに見ていたが、何事もなかったかのように窓の外に目をやる。
がこんと音がして、列車は再び動き出した。
そして風の都に着くまでの間、エリーはぼんやりと窓の外を眺めていた。