第三十一話「水遊び」

文字数 2,745文字


せっかく水の都に来たのだから、とエリー達は温水プールを楽しむことにした。発案者はリートだ。

「水の都まで来てプールに入らずに帰るのは愚か者のすることだ!」

珍しく強い口調で言っていた。エリー達はそうしてプールへと向かった。


着替え終わり、エリーとリート、そしてシャールとサラは待ち合わせ場所へと向かった。そこにウィリアム達が待っているのだ。リートとシャールは色違いの水着を着ている。リートは黒でシャールは白だ。よく似合っている。人形だから、というのもあるが、二人とも肌が白く美しいので、水着が映えている。下の部分がスカートになっている水着だ。

サラは白地に赤い花柄模様の水着だ。スタイルが良いので何を着ても似合いそうなものだが、その水着はサラによく似合っている。エリーはビアンカの助言をもらい、桃色でフリルのついた水着だ。胸元にリボンがついている可愛らしいデザインだ。四人とも髪が長いので、高い位置で一つに結っている。



待ち合わせ場所へ向かうと、ウィリアムとダニエル、シェルとカイが待っていた。リヒトもシェルの頭上にいた。エリー達に気が付くと、爽やかに笑うのがダニエルとカイ。表情に変化のないウィリアムに、意地でも視線を向けようとしないシェル。リヒトは嬉しそうにエリーの元へ飛んできた。リヒトもいつの間に着替えたのか、水着を着ている。一体どこで手に入れたのだろう。

「待たせたな」

リートがそう言うと、カイがニッと笑う。

「お前らの水着姿が見られたんだ。待つのなんて苦じゃねぇよ」

「おっさんかお前は」

「そう言うなよ。似合ってるぞ」

「あ、あの……カイ様」

「シャール。お前もよく似ってる。可愛い」

「自慢の妹だからな」

「はいはい。それじゃ、行くぞー」

カイがそう言って、プールへ進んでいく。それに対抗するように並ぶリートに、頬を赤くさせながら後ろからついていくシャール。三人は早速プールへと行ってしまった。

「エリーちゃん」

ダニエルの言葉に、エリーは顔を上げる。

「可愛い」

「え、あ……ありがとうございます」

エリーははにかむようにお礼を言い、そしてもじもじする。露出の多い格好は慣れていないのだ。

「……お前はあっちの世話だ」

そう言ってダニエルの背中を押したのはウィリアム。あっち、というのは、シェルとサラのことだろう。

「……シェル」

「お、おう」

「……大丈夫?」

「お、おお、おう」

シェルが全くサラの方を向かない。それどころか、会話もままならないようだ。ダニエルは大きくため息をつく。

「仕方ないな。行ってくるよ」

「ああ」

そう言ってダニエルはシェルとサラの元へ行く。地面に穴が開きそうなくらい視線を逸らさないシェルの肩を叩く。

「サラの水着姿はよく似合ってるな、シェル」

「お、おう」

「……見てないのに、わかるの?」

「あ、ああ、おう」

サラの言葉にも上手く反応できていない。そんなシェルの姿を見て、リヒトは大袈裟に肩を竦めた。

「……大丈夫か」

エリーに声を掛けるのは、ウィリアム。

「何が、ですか?」

「落ち着いていないように見える」

「……水着を着るのは、慣れていないものですから」

「そうか」

そう言って二人で黙る。少しして、ウィリアムは小さくため息をついた。

「……落ち着いていないのは俺の方かもな」

「はい?」

「プール、入るか?」

「……あの、足元だけでもいいですか?」

「構わないが、いいのか?」

「はい。私、泳ぐの苦手なんです」

そう言ってエリーは照れたように笑う。その言葉を聞いて、ウィリアムは驚いたようにエリーを見つめる。

「どうかされました?」

「いや……泳ぐのが苦手というのは、わかるんだな」

「え……あ、本当ですね」

エリーもまた改めて驚く。二人して驚いたようにお互いを見つめる。ウィリアムはふっと表情を緩めた。


「……じゃあ、何か食べながら話でもするか」

「はい!」

表情を明るくさせてエリーは返事をする。何かを食べながらというところに反応したのか、リヒトも何度も大きく頷いている。



「……もう少し、待ってくれないか」

「何をですか?」

「アンナのことだ」

「アンナさんのこと……?」

「今お前と顔を合わせたら……お互いを傷つけることになるかも知れない」

「そう、なんですか?」

「……命日なんだ。もうすぐ」

ウィリアムがエリーと視線を合わせずに言う。エリーは切なそうな表情でウィリアムを見ている。

「……エリカさん、ですか?」

「ああ」

返事をして、ウィリアムはため息をつく。

「この時期、アンナは人と距離を取るんだ。もう少し、待ってやってくれ」

「……はい」

エリーはそう言って、持っていたアイスクリームを口に運ぶ。その反対側を、リヒトが遠慮なく舐め続けている。


「エリー?」

そんな声にエリーは顔を上げる。驚いた顔でエリーを見るテオの姿があった。

「テオさん」

「こっち来てたのか!」

「はい。お祭りに招待していただいて」

「そっか。おれもな、祭りにいたんだけど……なんだ、会いたかった」

心底残念そうな顔をするテオ。エリーはクスッと笑う。すると、テオは少し顔を赤くした。

「……あ、あのさ」

「はい?」

「……め、珍しいよな。その、そんな、格好、というか」

「……? 水着ですからね」

街中では着ませんよ、と言ってエリーは笑う。

「そりゃあそうだけど! あの、その! に、似合ってる、なって」

語尾を弱めながらテオは言う。エリーは嬉しそうに笑う。

「ありがとうございます」

「あ、ああ」

そんな話をしていると、エリーは不意に腕を引っ張られた。驚いたように隣を見る。ウィリアムだ。

「……そろそろ、プール行くか」

「は、はい」

「浅いところなら大丈夫だろう」

「そうですね」

「……お前も、来るか」

そう言って立ち上がったウィリアムはテオに視線を向ける。身長差があいまって、テオは見下ろすウィリアムに威圧感を感じる。

「い、いえ……おれは、いいっす。じゃ、じゃあね、エリー」

そう言って慌てたように去っていく。エリーはその後ろ姿を見送り、そしてウィリアムを見上げる。

「ウィリアムさん?」

「なんだ」

心なしか無表情に戻っているような感じをエリーは覚えた。最近は随分と表情が読めるようになってきたが、まだまだだ。

「いえ……なんでもないです」

エリーは少し残念に思いながら、ウィリアムと共にプールへ向かった。
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