第四十五話「希望」
文字数 1,404文字
エリーは家事を再開することにした。いつまでも部屋に閉じこもっていても、ウィリアムに迷惑が掛かるだけだ。自分にできることはやる。エリーはそう決めていたはずだ、と自身に言い聞かせる。きっと戻ってくるというサラの言葉を、エリーは信じることにした。
しばらくしたら、もう一度泉へ行こう。そして、リヒトを迎えに行こう。そう決めることで、エリーは落ち込まないようにしていた。まずは、自分の記憶のことだ。そう考え、エリーの胸の奥がずしりと重くなる。思わず大きくため息をついてしまう。
呼び鈴が鳴った。エリーは顔を上げ、そして玄関へ向かう。ウィリアムへの来客だろうか。しかし今日ウィリアムは朝から出かけていた。新作の打ち合わせだとエリーは聞いている。そんなことを思いながら、扉を開けた。
「久しいな、エリー」
凛とした声でそう言うのは、リートだ。相変わらず可愛らしい姿だ。エリーは微笑んだ。
「こんにちは、リートさん」
「……ここに辿り着くのに、二日掛かってしまった」
嘆くような口ぶりに、エリーは驚く。口ぶりからして、きっとこの街に来てから二日間探してくれたのだろう。エリーは苦笑した。
「お疲れ様でした……」
「シャールには止められたのだがな、私が来なくてならないと思ったんだ」
「え、っと、何の御用でしょう?」
「一緒に来てもらいたい」
真剣な顔に、エリーは頷く。準備を済ませ、エリーはリートと共に歩き出すが……二人の足はどう考えても海の方へ向かっていた。
「どちらへ行かれるんですか?」
「それは言えん。だが、とりあえず駅へ向かっている」
「駅は逆方向です。リートさん」
「……そうだったな」
トーンの下がった声に、エリーは笑って先導することにした。
到着した場所は、大地の都、レームだった。
「やっと、着いた」
しみじみと言うリートに、エリーは笑う。確かに、前回より時間が掛かったような気がする。
「お待ちしておりました、エリーさん」
にっこり笑って穏やかな声でそう言うのは、シャールだ。
「お久しぶりです、シャールさん」
雰囲気に和みながら、歩き出す二人にエリーもついていく。森に囲まれた街は自然の香りで溢れていた。森のお茶会の時は、たくさんのお菓子でリヒトが目を輝かせていた。その光景が目に見えるようで、エリーは切なそうな顔をする。
「お、来たか」
爽やかに笑うカイ。後ろには自身の経営している宿が見える。
「いい部屋が余ってんだ。今日は泊まっていくだろ?」
その言葉に、エリーは困ったようにリートを見る。リートは力強く頷く。それを見て、エリーもおそるおそる頷いた。
「私たちも一緒だ。案ずるな」
「……はい」
カイに部屋を見せてもらい、そして再びリートとシャールの三人で街中を回っていく。街中にはリートやシャール以外の人形や、カイ以外の小人がたくさん歩いている。
「エリー」
「はい」
「栞は、使ってくれているか」
「もちろんです。よくダニエルさんの図書館に行くんですよ」
微笑むエリーを、リートが真剣に見つめる。
「エリー」
「はい」
「……貴様は一人じゃない」
力強い言葉に、エリーは頷く。シャールもエリーの手を取って優しく微笑んだ。エリーもつられたように、微笑む。
森の香りが、エリーの気持ちを癒してくれた。