11 もう一人くらい暮らせる広さ
文字数 4,207文字
学院は小高い丘の頂上にありました。ぐるりを森に囲まれたその丘は、森を海だとするとその真っ只中にぽっかりと浮かぶクジラの背のように見えます。
丘の頂の少し手前から始まる舗装された道を、馬車は速度を落としてのろのろとのぼっていきました。まもなく、一直線に長く伸びる鮮やかな緑の垣根が見えてきて、その中央にある野花の絡みつく石門の前で馬車は停まりました。
四人は降りて御者の男性に礼を言いました。彼はぺこりと頭を下げて微笑し、馬と一緒に垣根の脇の小道へ去っていきました。
「さあ着いたわ。ここがわたしたちの学院よ」ハスキルが晴れやかに告げました。
ミシスは少し緊張しながら、まずは石門に刻まれた〈エーレンガート女学院〉の文字をその目にしっかりと焼きつけ、それからみんなに背中を押されるがまま門をくぐり、その先に立つ校舎の姿を正面から見つめました。
校舎は煉瓦 と木材で造られた二階建ての建物で、いつかグリューが持ってきてくれたケーキの箱によく似た、平らで四角い形をしています。その箱に蓋をするように傾斜のゆるやかな赤い屋根が載っていて、正面玄関の二階のベランダには立派な鐘が一つぶら下がっています。ずいぶん年季の入った建物のようですが、その佇 まいからは、長いあいだ大切に守られ手入れされてきた温もりが伝わってきます。
「素敵……」ミシスは両目を細めて吐息をつきました。
校舎の前は開けた庭になっていて、こんもりと葉をつける何本かの樹木と、蝶や蜜蜂の舞う花壇、柵で囲まれた小さな池、そしてあちこちに木製のベンチがあります。今はどこにも人気 はなく、ベンチもすべて猫たちに占拠されています。彼ら彼女らは四人の姿に気づくとちらりと顔を上げましたが、それきり二度と注意を払うこともなく、水で練った小麦粉のように体を伸ばして日向ぼっこを継続しました。
「お持ちします、先生」ピレシュがハスキルの旅行鞄を引き受けました。
「あ、わたしが」ミシスがそこへ手を伸ばします。
「いいのよ」ピレシュがきっぱりと断ります。
ノエリィがミシスのお尻をぽんと叩きます。「ミシス、こっちだよ」
四人は校舎の壁に沿って左の方角へ向かいました。てっきり校舎へ入るのかと思っていたミシスは、これからどこへ行くのかたずねようと口を開きかけました。でも少しだけ、ピレシュの発言の方が先でした。
「ところで先生。今のところ寮は満室だって、ご存知ですよね?」
「もちろんよ」
「もうすぐ新しい学年が始まるわけですが、新入生たちも含めて、生徒の名簿はもう全員ぶん揃っています。欠員の予定もありません」
「ありがたいことよねぇ」しみじみとハスキルがうなずきます。
「ええ、本当に。……で」
「で?」
「ミシスはどこで寝泊りするのですか?」
「わたしのとこだよ」ノエリィが手を挙げます。
「えっ?」ピレシュとミシスが同時に目を丸くして、一瞬立ちどまります。
「どういうことです?」またミシスより先に、ピレシュがたずねます。「まさか、お二人の家で一緒に生活するおつもりですか?」
「そのつもりよ」ハスキルがこともなげに肯定します。
「そんな」ミシスはやっと声を出すことができました。「ご迷惑なんじゃ……」
「そうですよ。そんないきなり、ほんの数日前に知り合ったばかりの人間と、おなじ屋根の下で生活するなんて……」
ピレシュのその言葉はミシスの胸をちくっと刺しましたが、それと同時に、いやそれ以上に、まったくその懸念は正当なものだとも思いました。
「仕方ないじゃない。ほかにこれといって場所もないし。まさか庭で暮らしてもらうわけにもいかないでしょ」ハスキルが言います。
ミシスはどんな反応をしていいものやらわからず、ただ当惑するばかりです。
「あはは、冗談よ」困り果てる少女の頭を軽く撫でて、ハスキルが笑います。「私たちはちっとも気にならないから。ミシスさえ良ければ」
「わ、わたしは、良いもわるいも……」しどろもどろでミシスは口ごもります。
「でも、どこで寝るのです」ピレシュが憮然 とした顔つきで問い詰めます。
「だから、わたしのとこだってば」ノエリィがくり返します。「わたしの部屋、もう一人くらい暮らせる広さ、じゅうぶんあるよ」
ミシスが言います。「ほんとにいいの?」
ピレシュが言います。「それでいいの?」
「だからぁ、かまわないってば」ノエリィはペンギンのように両腕をぱたぱた振ります。「それどころか、ミシスと一緒に暮らすの、ずっと楽しみにしてたんだから。ねぇミシス、あなたはいや?」
「とんでもない」問われた少女はかすかに赤面して首を振ります。「わたしも、あの、なんていうか……すごくわくわくする」
「よかった」ノエリィが歯を見せて笑います。
「あなたたち母娘には、呆れました」ピレシュはまぶたを半分閉じ、心なしか寂しそうに肩をすくめました。
校舎の左手を少し奥へ行った先に、エーレンガート母娘の暮らす二階建ての家が建っていました。校舎よりはいくらか新しい建物のようですが、手入れはそこまで念入りにされていないようです。壁にはところどころ蔦 が這いのぼり、庭の花壇には無計画に植えられたとおぼしき花や野菜がびっしり植わっています。金属製の郵便受けには錆びが浮き、玄関の柱やドアの塗装もあちこち剥げかかっています。一階のテラスや二階のベランダの手摺 は、すっかり角 が取れて丸くなってしまっています。もとは綺麗な橙色 であったことをしのばせる三角屋根は、雨風に洗われて紅茶の染みのような色になってしまっています。
けれど玄関の前に立ったミシスは、この家に芯から沁み込んでいる人肌のような温もりを、ひしひしと感じ取っていました。
これはただ歳月を重ねただけの建物なんかじゃない、と彼女は思います。住人たちが心を込めて日々を暮らしてきたからこそできあがった、この世に二つとしてない美しい家なんだ。
「これが、ノエリィたちのおうちなんだね」
「うん。そして今日からは、ミシスの家でもあるんだよ」
にっかりと笑うと、大きな声でただいまを叫んで、ノエリィは玄関のドアを勢いよく開けてなかへ入っていきました。
「ただいま」母がそのあとに続きます。
「おかえり、お母さん」娘が振り返って出迎えます。
「なに言ってるの、この子は」母が眉をひそめて笑います。
「失礼します」ピレシュが荷物を運び込みます。
「お邪魔します……」最後にミシスが、遠慮がちに玄関に足を踏み入れました。
家の一階はほとんど間仕切りのない空間になっていて、玄関から短い廊下を進むと、すぐに広々とした居間兼食堂になっていました。
荷物を壁際のカウチの上に並べて置くと、ハスキルが荷ほどきの前にお茶を淹れましょうと提案しました。ピレシュは着ている服のお腹のあたりの皺を一度ぴんと両手で伸ばすと、姿勢を正してハスキルに向き直りました。
「ご好意だけいただきます。日が暮れる前に片づけてしまいたい仕事があるので、わたしはこれで失礼します」
「あら残念。いつもすまないわね、ピレシュ。一 生徒であるあなたに、おとなの仕事までやらせてしまって。あなたには、ずっと甘えっぱなしね」
「いえ、まったく問題ありません」ピレシュは悠然と首を振ります。「先生のお役に立てるのはわたしの本望ですし、それにそのへんのおとなよりは、わたしの方が仕事も早いと思いますので」
ハスキルとノエリィは、その一言を受けて同時に深くうなずきました。ミシスもなぜか同調して、おなじようにしました。
三人はピレシュを見送りに再び玄関へ向かいました。
「では、わたしは夕方には寮に戻りますが、それまでは校舎の方にいますので、なにかあったら声をかけてください」
「わかったわ」ハスキルがこたえます。
「こほん」文章を読み上げるようなはっきりとした咳ばらいを一つして、ピレシュがミシスの方を向きました。「あなたも、なにか困りごとがあったら、わたしに相談なさい。先生はお忙しいんだから、あまりご迷惑をかけちゃだめよ」
「はい、ありがとうございます」
「ノエリィも」ピレシュは体の向きを変えて呼びかけます。
「はい?」呼ばれた少女が気の抜けた返事をします。
「あんまり遊んでばかりいちゃだめよ。あなたもこの春からここの生徒になるんだから。先生の顔に泥を塗らないように、ちゃんと勉強もしなくちゃ」
「わかってまぁす」ノエリィは頬を膨らませてこたえました。
去っていくピレシュの背中を、ミシスはしばらく玄関先から見つめ続けました。彼女は一度もこちらを振り返ることなくまっすぐ校舎の方へ歩いていきましたが、途中でベンチに寝そべる猫のそばにかがみ込んで、その頭や首の下をこちょこちょと撫でていました。
「しっかり者なんだよ、ピレシュは」居間に戻ると、ノエリィが自慢げに言いました。「小さい頃からずっとここの寮で暮らしてるの。みんなのお姉さんみたいな人なんだよ。でもさ、根はすごく優しいんだけど、ちょっと自分にも人にも厳しすぎるのよねぇ」
「あの子がいなければ、この学院は成り立たないわ」ハスキルが慈しみを込めて言います。「だけどそれ以前に、私たちにとっては家族同然のかけがえのない存在。仲良くしてあげてね、ミシス」
「ピレシュさんさえいやじゃなければ、わたしはぜひ仲良くなりたいです」
それから三人は食堂のテーブルに座って、熱い紅茶を飲みました。全員カップを空にすると、誰からともなく立ち上がり、テラスを一望できるソファに並んで腰をおろしました。夕暮れ時の太陽が、家のなかも外も仄赤 く照らしています。
「……このまま動きたくないなぁ」ノエリィがぽつりとつぶやきました。
それに全員が同意したことによる気怠 い沈黙が、しばらくのあいだ降りました。
「そういうわけにはいかないわ!」
思いきり出し抜けに叫んで、がばっとハスキルが立ち上がりました。
「うわぁ!」二人の少女は文字どおりひっくり返ります。
「とっとと荷物を片づけて、陽の出てるうちに少しでも毛布と枕を干して、そしてそして、とびっきりの料理を作らなくちゃ。なにしろ三人で食べる、初めての晩御飯なんだからね」
「よぉし!」母に追随して、ノエリィも力いっぱい飛び起きます。
ミシスは無言で、やや恥じらいつつ、半歩遅れて起立しました。そして握った拳をそっと控えめに突き上げました。
一瞬の静けさの後、三人はこらえきれず一斉に笑いだしました。
丘の頂の少し手前から始まる舗装された道を、馬車は速度を落としてのろのろとのぼっていきました。まもなく、一直線に長く伸びる鮮やかな緑の垣根が見えてきて、その中央にある野花の絡みつく石門の前で馬車は停まりました。
四人は降りて御者の男性に礼を言いました。彼はぺこりと頭を下げて微笑し、馬と一緒に垣根の脇の小道へ去っていきました。
「さあ着いたわ。ここがわたしたちの学院よ」ハスキルが晴れやかに告げました。
ミシスは少し緊張しながら、まずは石門に刻まれた〈エーレンガート女学院〉の文字をその目にしっかりと焼きつけ、それからみんなに背中を押されるがまま門をくぐり、その先に立つ校舎の姿を正面から見つめました。
校舎は
「素敵……」ミシスは両目を細めて吐息をつきました。
校舎の前は開けた庭になっていて、こんもりと葉をつける何本かの樹木と、蝶や蜜蜂の舞う花壇、柵で囲まれた小さな池、そしてあちこちに木製のベンチがあります。今はどこにも
「お持ちします、先生」ピレシュがハスキルの旅行鞄を引き受けました。
「あ、わたしが」ミシスがそこへ手を伸ばします。
「いいのよ」ピレシュがきっぱりと断ります。
ノエリィがミシスのお尻をぽんと叩きます。「ミシス、こっちだよ」
四人は校舎の壁に沿って左の方角へ向かいました。てっきり校舎へ入るのかと思っていたミシスは、これからどこへ行くのかたずねようと口を開きかけました。でも少しだけ、ピレシュの発言の方が先でした。
「ところで先生。今のところ寮は満室だって、ご存知ですよね?」
「もちろんよ」
「もうすぐ新しい学年が始まるわけですが、新入生たちも含めて、生徒の名簿はもう全員ぶん揃っています。欠員の予定もありません」
「ありがたいことよねぇ」しみじみとハスキルがうなずきます。
「ええ、本当に。……で」
「で?」
「ミシスはどこで寝泊りするのですか?」
「わたしのとこだよ」ノエリィが手を挙げます。
「えっ?」ピレシュとミシスが同時に目を丸くして、一瞬立ちどまります。
「どういうことです?」またミシスより先に、ピレシュがたずねます。「まさか、お二人の家で一緒に生活するおつもりですか?」
「そのつもりよ」ハスキルがこともなげに肯定します。
「そんな」ミシスはやっと声を出すことができました。「ご迷惑なんじゃ……」
「そうですよ。そんないきなり、ほんの数日前に知り合ったばかりの人間と、おなじ屋根の下で生活するなんて……」
ピレシュのその言葉はミシスの胸をちくっと刺しましたが、それと同時に、いやそれ以上に、まったくその懸念は正当なものだとも思いました。
「仕方ないじゃない。ほかにこれといって場所もないし。まさか庭で暮らしてもらうわけにもいかないでしょ」ハスキルが言います。
ミシスはどんな反応をしていいものやらわからず、ただ当惑するばかりです。
「あはは、冗談よ」困り果てる少女の頭を軽く撫でて、ハスキルが笑います。「私たちはちっとも気にならないから。ミシスさえ良ければ」
「わ、わたしは、良いもわるいも……」しどろもどろでミシスは口ごもります。
「でも、どこで寝るのです」ピレシュが
「だから、わたしのとこだってば」ノエリィがくり返します。「わたしの部屋、もう一人くらい暮らせる広さ、じゅうぶんあるよ」
ミシスが言います。「ほんとにいいの?」
ピレシュが言います。「それでいいの?」
「だからぁ、かまわないってば」ノエリィはペンギンのように両腕をぱたぱた振ります。「それどころか、ミシスと一緒に暮らすの、ずっと楽しみにしてたんだから。ねぇミシス、あなたはいや?」
「とんでもない」問われた少女はかすかに赤面して首を振ります。「わたしも、あの、なんていうか……すごくわくわくする」
「よかった」ノエリィが歯を見せて笑います。
「あなたたち母娘には、呆れました」ピレシュはまぶたを半分閉じ、心なしか寂しそうに肩をすくめました。
校舎の左手を少し奥へ行った先に、エーレンガート母娘の暮らす二階建ての家が建っていました。校舎よりはいくらか新しい建物のようですが、手入れはそこまで念入りにされていないようです。壁にはところどころ
けれど玄関の前に立ったミシスは、この家に芯から沁み込んでいる人肌のような温もりを、ひしひしと感じ取っていました。
これはただ歳月を重ねただけの建物なんかじゃない、と彼女は思います。住人たちが心を込めて日々を暮らしてきたからこそできあがった、この世に二つとしてない美しい家なんだ。
「これが、ノエリィたちのおうちなんだね」
「うん。そして今日からは、ミシスの家でもあるんだよ」
にっかりと笑うと、大きな声でただいまを叫んで、ノエリィは玄関のドアを勢いよく開けてなかへ入っていきました。
「ただいま」母がそのあとに続きます。
「おかえり、お母さん」娘が振り返って出迎えます。
「なに言ってるの、この子は」母が眉をひそめて笑います。
「失礼します」ピレシュが荷物を運び込みます。
「お邪魔します……」最後にミシスが、遠慮がちに玄関に足を踏み入れました。
家の一階はほとんど間仕切りのない空間になっていて、玄関から短い廊下を進むと、すぐに広々とした居間兼食堂になっていました。
荷物を壁際のカウチの上に並べて置くと、ハスキルが荷ほどきの前にお茶を淹れましょうと提案しました。ピレシュは着ている服のお腹のあたりの皺を一度ぴんと両手で伸ばすと、姿勢を正してハスキルに向き直りました。
「ご好意だけいただきます。日が暮れる前に片づけてしまいたい仕事があるので、わたしはこれで失礼します」
「あら残念。いつもすまないわね、ピレシュ。
「いえ、まったく問題ありません」ピレシュは悠然と首を振ります。「先生のお役に立てるのはわたしの本望ですし、それにそのへんのおとなよりは、わたしの方が仕事も早いと思いますので」
ハスキルとノエリィは、その一言を受けて同時に深くうなずきました。ミシスもなぜか同調して、おなじようにしました。
三人はピレシュを見送りに再び玄関へ向かいました。
「では、わたしは夕方には寮に戻りますが、それまでは校舎の方にいますので、なにかあったら声をかけてください」
「わかったわ」ハスキルがこたえます。
「こほん」文章を読み上げるようなはっきりとした咳ばらいを一つして、ピレシュがミシスの方を向きました。「あなたも、なにか困りごとがあったら、わたしに相談なさい。先生はお忙しいんだから、あまりご迷惑をかけちゃだめよ」
「はい、ありがとうございます」
「ノエリィも」ピレシュは体の向きを変えて呼びかけます。
「はい?」呼ばれた少女が気の抜けた返事をします。
「あんまり遊んでばかりいちゃだめよ。あなたもこの春からここの生徒になるんだから。先生の顔に泥を塗らないように、ちゃんと勉強もしなくちゃ」
「わかってまぁす」ノエリィは頬を膨らませてこたえました。
去っていくピレシュの背中を、ミシスはしばらく玄関先から見つめ続けました。彼女は一度もこちらを振り返ることなくまっすぐ校舎の方へ歩いていきましたが、途中でベンチに寝そべる猫のそばにかがみ込んで、その頭や首の下をこちょこちょと撫でていました。
「しっかり者なんだよ、ピレシュは」居間に戻ると、ノエリィが自慢げに言いました。「小さい頃からずっとここの寮で暮らしてるの。みんなのお姉さんみたいな人なんだよ。でもさ、根はすごく優しいんだけど、ちょっと自分にも人にも厳しすぎるのよねぇ」
「あの子がいなければ、この学院は成り立たないわ」ハスキルが慈しみを込めて言います。「だけどそれ以前に、私たちにとっては家族同然のかけがえのない存在。仲良くしてあげてね、ミシス」
「ピレシュさんさえいやじゃなければ、わたしはぜひ仲良くなりたいです」
それから三人は食堂のテーブルに座って、熱い紅茶を飲みました。全員カップを空にすると、誰からともなく立ち上がり、テラスを一望できるソファに並んで腰をおろしました。夕暮れ時の太陽が、家のなかも外も
「……このまま動きたくないなぁ」ノエリィがぽつりとつぶやきました。
それに全員が同意したことによる
「そういうわけにはいかないわ!」
思いきり出し抜けに叫んで、がばっとハスキルが立ち上がりました。
「うわぁ!」二人の少女は文字どおりひっくり返ります。
「とっとと荷物を片づけて、陽の出てるうちに少しでも毛布と枕を干して、そしてそして、とびっきりの料理を作らなくちゃ。なにしろ三人で食べる、初めての晩御飯なんだからね」
「よぉし!」母に追随して、ノエリィも力いっぱい飛び起きます。
ミシスは無言で、やや恥じらいつつ、半歩遅れて起立しました。そして握った拳をそっと控えめに突き上げました。
一瞬の静けさの後、三人はこらえきれず一斉に笑いだしました。
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