あとがき ~いま、生きづらさの向こうへ~

文字数 808文字

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


樋口一葉の原作『にごりえ』は、ヒロインお力の死で終わります。けれども私は、そこまで書かないことにしました。

お話の終わり、いえ、新しいお話の始まりは、皆さまにゆだねます。


この先どうなるか、私も考えてはあるのです。

ただし、二通りあります。

もしかしたら将来、さらに素敵な答えを思いつくかもしれません。


原作のお力の、生きていたくないと思ってしまうはかなさと、それでも死にたくないともがくエネルギーは、百二十年後のいま読んでもリアルです。

ほとんど二人いる、と思いました。明と暗、二人のお力がいる。

わかる、と思いました。私も二人いる。

どんな人も、多かれ少なかれ、二人の自分をかかえて生きているのではないでしょうか。

どんな人も──

とくに、こうしてここで、読んだり書いたりしている私たちは。

だって、複数の登場人物を自分の中に住まわせるのは、さまざまな自分を作って住まわせることですよね?


それは、とても健やかな「分裂」だと思います。

そのために、物語はあるのだと思います。

人生を一人で背負うのがつらいとき、「私」を「私たち」に増やして、そして、

力を合わせて背負うために。


この、先の見えない、いつまで続くかわからない、

まさに「濁り江」そのものの時間をいま、

生きのびていくために。


私は、ちょっとした人生の危機にあったとき、リキ君たち四人の──あ、ナッちゃん入れて五人か。

彼ら五人のおかげで、生きのびることができました。

私がゼロから造った人たちではないです。私に出会ってくれた何人もの人たちの、大切な思い出を編みこんでできています。

願わくは、読んでくださった皆さまにも、彼らが何かの支えか、せめて慰めになれますように。

そう思って、彼らに、私の中だけに住んでいないで、皆さまに会っていただくことにしました。


五人とも、根が照れ屋なので、はずかしがっています。(笑)



ミムラアキラ

(2021.5.17)

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

リキ(力) 若い男。

タカ(高) 若い男。リキの「同居人」。

ゲン(源) 若くない男。タカの「客」。

ハツ(初) 若くない女。ゲンの妻。

ナツ(夏) 少女。

リキ&タカ(二人同時に)

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色