第二幕第四場(1)

文字数 666文字

ゆっくりと規則正しく響く、水道の蛇口から水滴の落ちる音。
リキ、はさみを手に持ち、ノートに突き刺す。
ハツ、駆けよる。
何するの。
ハツ、リキからはさみをとり上げようとする。
リキ、ハツの手をふりはらい、ノートにはさみを突き刺しつづける。
(乾いた幼い声でつぶやく)じゅういち。じゅうに。じゅうさん……
リキ、ナツに交代している。
リキ君。
じゅうし。じゅうご。じゅうろく……
やめて。ね。(はさみをとり上げようとする)
(ふりはらって)じゅうしち。じゅうはち。じゅうく。
お願い。
さわらないで!(手を止め、ぼんやりと)わかんなくなっちゃった。
間。
(再びはさみを突き刺し始める)いち。に。さん……
ハツ、なすすべもなく、見守る。
リキ君。
はなしかけないで。
何を、してるの?
じかんをつぶしてるの。
響きつづける水滴の音。
ハツ、もう一度、ナツに近づく。
そんなこと、しなくても、いいのよ。
だめなの。ひゃくまでかぞえるの。
どうして?

かあさんが、かぞえてるの。とうさんが、かえってくるまで。

ずっと、かぞえてるから、あたしが、かあさんのかわりに、かぞえてあげるの。

でも、あたし、ひゃくまでしか、しらないから。


さんじゅういち。さんじゅうに。さんじゅうさん。さんじゅうし……
響きつづける水滴の音。
(静かに)さんじゅうご。
ハツ、ナツの手からそっとはさみをとり上げ、いっしょに数え始める。
さんじゅうろく。さんじゅうしち。さんじゅうはち……
響きつづける水滴の音。
だれ?
私が、わからない? リキ君。
リキじゃない。ナツコ。
ナツコ?
うん。
女の子……?
あたりまえでしょ。
響きつづける水滴の音。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

リキ(力) 若い男。

タカ(高) 若い男。リキの「同居人」。

ゲン(源) 若くない男。タカの「客」。

ハツ(初) 若くない女。ゲンの妻。

ナツ(夏) 少女。

リキ&タカ(二人同時に)

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色