第一幕第八場(4)

文字数 1,006文字

おハツさん……?
(まだ声が出ない)
今、何かあったんですか。
(首を振る)
何かあったんですね。俺、何か変なこと言いましたか。
(首を振り続ける)
言ったんですね。どうしよう。あの、どうか信じないでください。デタラメなんですいつも、あいつ……じゃなくて……俺……すみません!
いいの、いいのよ。大丈夫。
すみません。(一歩近づく)
(思わず飛びのく)大丈夫だって!
(途方に暮れて立ち尽くす)
(けんめいに自分を取り戻そうとして)私もね、今、ちょっと、弱ってて。あの人に出て行かれて、それで、女として、ホントにみじめな気持ちで、
あの、俺、
自分がすごく汚らしいモノのような気がしてて、
俺そんなにひどいこと言ったんですか!
わかってる。あなたじゃない。あなたじゃない。あれが、タカって子なのね。
名乗った?! あいつ……
覚悟はしてたけどあんなこと言われると思わなかったから。ホントにあなたとは全然違う、別人よね、でもごめんなさい、私やっぱりあなたに言われたような気がして、もし、あれが、あなたの、本音だったら、もう……
覚悟、してた?
間。
知ってたんですか。タカのこと。俺のこと。
(急いで)あの、ユウキ先生から聞いて……
ユウキ先生を、知ってるんですか。どうして?
それは……
まさか。違いますよね。違うって言ってください。お願いです。(ハツ、答えられない)そうなんだ。おハツさんの待ってる人って。帰ってこない人って。だから俺に? さりげなく近づいて?
違うの、あなたに会ったのはホントに偶然だったの、信じて。
でも、そうなんだ。そうなんですね。あなたは。あの人の。ゲンさんの。
奥さんだったんだ。
苦い間。
(しぼり出すように)こんなのってありかよ……!!
隠してたわけじゃないの! 言い出せなかっただけなの……
何もかも知ってたんだ、あなたは! 知ってて。普通に。俺と。話を。
あのね、聞いて。
好奇心ですか。
違うの。
笑ってた? 相手がただの変態で、変態どころか化け物で、勝ったと思った?
違う!
わかってます、あなたはそんな人じゃない、でも、ごめんなさい、俺も心の準備ってものが、できてなくて。ああ、だから! 俺は、いつも! 誰とも関わらないように、話なんかしないようにしてきたんです、どうして……よりによって……あの人の……!
リキ君……
無理。もう無理。見ないでください、俺を! 見ないで! 見ないで!

リキ、顔を覆ってうずくまる。
長い間。


やがてタカ、静かに進み出る。

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登場人物紹介

リキ(力) 若い男。

タカ(高) 若い男。リキの「同居人」。

ゲン(源) 若くない男。タカの「客」。

ハツ(初) 若くない女。ゲンの妻。

ナツ(夏) 少女。

リキ&タカ(二人同時に)

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