第二幕第五場(4)

文字数 605文字

(静かに)なあんてね。


だめですよ先生、俺の言うことなんか信じちゃ。今までだってさんざんだまされてきたじゃないですか。危ない危ない。ひゅー。

いいことだってありましたからね、俺の人生。

ハツコさんに会えた。先生のおかげです。

楽しかったです。ひさしぶりに笑えた。おかしいですよね、あの人。俺のこと気持ち悪がらないし、恨まないし、驚かないし。どうでもいいことにはやたらビックリするくせに。

信じられます? あの人、ナッちゃんまで笑わせたんですよ。俺にはナッちゃん見えるんです、ちゃんとちっちゃい子どもの姿で。背は(手で示す)このくらい。髪がサラサラでね。笑うとホントかわいいの。(微笑する)まあね、俺に似て美人だから。


花が好きなんですよ、あの子。そしたらハツコさん、花、買ってくれたんです。でも高いの買えないからって。知ってます? 閉店まぎわになると、ちょっと咲きすぎたやつを束にして、安売りするんですよ。「お花の安売りなんてかわいそうよね」だって。うちの母親とおんなじこと言ってるの。
二人の声、しだいに重なっていく。
確かにね。明日には捨てられる運命なんですよね。
でも、今日はまだ、咲いてるわけだから。
「花を飾る気持ちがあるうちは大丈夫よ」って……
母親は言ってました。だから……
大丈夫ですよ。俺。
今まで、ありがとうございました。
リキ、封筒を舞台の段の上に置く。

リキ、タカ、消える。


入れ替わりに、ハツ、浮かび上がる。
喪服姿。
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登場人物紹介

リキ(力) 若い男。

タカ(高) 若い男。リキの「同居人」。

ゲン(源) 若くない男。タカの「客」。

ハツ(初) 若くない女。ゲンの妻。

ナツ(夏) 少女。

リキ&タカ(二人同時に)

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