第一幕第五場(1)
文字数 815文字
(晴ればれと)おかげさまで、なんとかやっております。ご心配おかけして、申し訳ありません。パートをね、増やしてもらったんです。――あの、それが。スーパーのほうは、高校生のお嬢さんが入って、私は、クビに。若い人のほうが時給も安いし、それに……(はずかしそうに微笑む)オバサンとどっちとるかって言われるとね、ですって。ひどいでしょ。
それで、お弁当のチェーン店のほうを、週三回に。ホントはもっと増やしてもらいたいんですけど、当面はそれでって言われちゃって。いろいろ探しても、私の歳だと、選択肢がほとんどないんですね。みんな、三十歳までとか、三十五歳までとかで。きびしいです。
だから、もう一つは、今のところ、派遣会社に登録させていただいて、清掃、お掃除を。駅とか、地下街とか。夜のほうが時給がいいから、――(微笑む)大丈夫です。ちゃんと帰って、寝てます。――そうですね、年輩の方が多いけど……、あ、でも、そういえば、一人だけ若い人がいます。静かな人。絶対目を合わせてくれないから、はじめは、何か私悪いことしたかなぁなんて、思ったりしてたんですけど……
リキ、浮かび上がる。床を掃いていく。
たまたまその人の次が私っていう組み合わせが続いたことがあって、気がついたんですけど。いつも、少し多めに掃いてくれてるんです、私の分まで。どうしてなんだか、わかりません。私が、新入りで、もたもたしてるからかな。(はずかしそうに)もしかしたら、ロッカーの陰でぼんやりしてたのを、見られちゃったのかな。――ええ、「いまどきの若者は」なんて言う人いますけど、そんなことないですよ、優しいんです。優しそうなふり、できないだけで。――名前ね、本名じゃないらしいんですけど、リキ君っていうんですって。――(客席を驚いたように見つめ)どうしてそんなに、ビックリなさるんですか?
リキ、ハツの近くまで掃いてくる。
ハツ、リキに気づく。
二人、互いに会釈する。
リキ、去ろうとする。
ハツ、リキに気づく。
二人、互いに会釈する。
リキ、去ろうとする。