第一幕第八場(9)

文字数 549文字

ハツコさん。
何?
聞いてる?
うん。聞いてる。
話を聞かされた。哀しい話だ。そいつがずっと頭から離れない。
ゲン、スーツケースの中からつぎつぎとランジェリーをとり出しながら、語り始める。
知ってる? 海に沈んだ町の話。
以下、ゲンはリキに、タカはハツに向かって、それぞれ語り続ける。
その町は、今でも時々、海底から姿を現すというんです。
話を聞かされた。哀しい話だ。
突然、波が割れて、目の前に大通りが現れる。
そいつがずっと頭から離れない。
あちこちから声がかかる、「何がお望みですか」。
おれ一人の力じゃ止められないんだ。だから助けて。
でも、どうやって?
呼んでよ。あいつの名前。
足が、ゆっくりとしか、前に出せない。
リキ君。
この町も、沈んでいるんです。
リキ君!
わかってくれた? おれの役目。あいつをつなぎとめてるんだよ、溺れないように……
どうしてその町が海に沈んだか、教えてあげようね。
昔むかし、ひとりの王さまがありました。
とても、とても、よい王さまでした。
王さまには、ひとりの娘がありました。
とても、とても、キレイなお姫さまでした。
王さまは、その姫を、とても、とても、愛していました。
なぜなら、王さまにはその姫が、亡くなったお妃の代わりのように思えたからです。

ゲン、リキの服を脱がせ、彼にランジェリーをまとわせていく。
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登場人物紹介

リキ(力) 若い男。

タカ(高) 若い男。リキの「同居人」。

ゲン(源) 若くない男。タカの「客」。

ハツ(初) 若くない女。ゲンの妻。

ナツ(夏) 少女。

リキ&タカ(二人同時に)

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