第一幕第三場(1)

文字数 1,093文字

奥さんいたんだ。

知ってた。
あ、そ。
お前、ホントにあのユウキって先生に失礼なこと言ってない?
言ってないって。俺ウソはつかないよ。(笑う)たまーにしか。
(黙ったまま)
大丈夫、見つかるって。お前が心配してもしょうがないだろ?(左手を前へさし出し、相手の肩に置くようなしぐさ)
(なにげなく自分の左手首の時計を見て)何、これ。
何。
時計……?
間。
また買った?
(ふふっと鼻で笑う)
前の時計は?
ああ、あのデブの社長がくれたやつ? あげちゃった。
誰に?!
んー、覚えてない。
またかよ……!
だぁって、金ピカのロレックスとかマジおっさんくせーの。俺が欲しかったのはね、こいつ。ブライトリングのスーパーオーシャン・ヘリテージ・クロノ。ね、ブライトリングなのにコックピット系じゃなくてダイバーズってちょっと良くない? しかもなんと! 世界四千本限定バージョンってやつ。
ブ……ブラ……?
ブライトリングのスーパーオーシャンヘリテージクロノ。言ってみな。はいどうぞ。
……???
ボーズがビョーブにジョーズにボーズの絵を描いた。はいどうぞ。
おい!
ブブー。はい失格。
いくらした? 五万? 十万……?
は? ゼロ1コちがーう。
ウソ?!
平気平気。四、五回で返せる。と思う。た・ぶ・ん。
たぶんって……(はっと気づく)あの金のやついくらだった?
ロレックス? まあ、たぶん、二百万?
それを人に……やって……?
売ればよかったってか? 俺はね、自分で買いたかったの、単に。
わからない。
働かざる者、食うべからずってね。
もっとわからない! いいか、今月、ガスと水道両方払う月なんだよ?
へえー。
このままだと、止められるんだよ……
ふーん。
聞けよ!
聞いてるよ、ご主人サマ。で、何がお望みでございますか?
だから……
何よ?
シャワーは……、悪いけど、外ですませてきてくれると……
あーあ、まったく、これだから。今朝だけだろ。いいじゃない、たまには家で浴びさせてよ。アッツアツのシャワーくらいしか人生の楽しみ、ないんだから。
でも、あんなに流しっぱなしにされると……
うっわ、ケチくさ。嫁かよ。てか、むしろシュウトメ?
俺だってこんなこと言いたくないよ! だいたいお前が、少しでも、生活費を……入れてくれれば……
俺の金は俺が使う。以上。終わり。
頼むよ!
スマホ代、俺払ってるじゃない。
スマホ使ってるのお前だけだろ。
当然よ、俺は店や客と連絡とるのに必要だもん。お前いらないじゃない、スマホ。友達いないし。
(言い返せない)とにかく。俺の稼ぎだけじゃ、足りないから。
キレイな仕事だけ選ぶから。
選んでないよ……
じゃ、これ、どうよ。(バッグの中を探る)
(いやな予感にかられて)何。
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登場人物紹介

リキ(力) 若い男。

タカ(高) 若い男。リキの「同居人」。

ゲン(源) 若くない男。タカの「客」。

ハツ(初) 若くない女。ゲンの妻。

ナツ(夏) 少女。

リキ&タカ(二人同時に)

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