第一幕第五場(3)

文字数 685文字

(明るく)もう、ずいぶん前になるかな。ある日突然、帰ってこなくなっちゃったの。猫なんて、いつでもうちに帰ってくるものだと思ってたから、ちょっとね。ショックだった。

そのうちまた、帰ってくるんじゃないですか?
そうかな。
帰ってきますよ。
ありがとう。(思わず涙ぐみそうになる。急いで)リキ君は、何か飼ってるの?
舞台後方に、タカ、浮かび上がる。
同じく猫耳。

飼ってる、かな。
何を? 猫?
ええ、まあ。
そっか。あーあれだ、いつのまにかどこかから来て、居ついちゃったとか。
(ため息とともに)ええ、まあ。
え、イヤなの? 出てってほしいの?
ですね。
(憤慨)
そうなんだ。うちと逆ね。
ですね。
手がかかるとか。
かかりますね。
(それはこっちの台詞だ!という身ぶり)
夜、出歩いてばっかりだとか。
出歩いてばっかりですね。
元気でいいじゃない。
ビョーキですよ。
(お前が言うか!という身ぶり)
でも、出て行きはしないのね。
(ぽつんと)いるんですよ。いつも。そこに……
間。
うちの人も、いるかも。いつも、そこに。どこへ行っても、あの人がいるような気がする。(微笑む)置いて行かれたほうは、逃げられないのよね。
(初めてはっきりと顔を上げて、ハツの横顔を見る)
ずっと、息をしていない気がするの。(胸のあたりを押さえる)ここが、固まってしまったみたいで。時間が、止まってしまったみたいで。地球は回ってるのに、私だけが、止まってる感じ。……なんてね。(笑う)変よね。
変じゃないです。
そう?
俺も……
?(黙って待つ)
俺も、もうずっと、息、してないし。
間。
いつから?
いつからかな。
リキ、ハツ、タカ、消える。
ゲン、一人。猫耳を外す。

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登場人物紹介

リキ(力) 若い男。

タカ(高) 若い男。リキの「同居人」。

ゲン(源) 若くない男。タカの「客」。

ハツ(初) 若くない女。ゲンの妻。

ナツ(夏) 少女。

リキ&タカ(二人同時に)

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