第一幕第八場(1)

文字数 1,433文字

さあてさてさて、お立ち会い!
ここにまかり出でましたる二人組、リキとタカ。さあ、何と思し召す? 双子? 替え玉? ノンノンノン。人呼んで、多重人格と申します。でもこれは古い呼び方ね。今は解離性同一性障害ってぇのが正式名。(宙に指を走らせる)分解のカイに、ハナレルで、カイリ。んなことはどうでもいい。とにかく、精神的なショーック!がもとで、自己同一性、アイデン、ティティってぇのがダメになっちまう。何か辛~い目にあったときに、ああ、これ、なかったことにしよう、ワタシ、知らなかったことにしよう、ってんで、まるでヒトゴト、ね、タニンゴトと書いてヒトゴトと読む、そこのおにーさん知ってた? 他人事のように、見ざる、言わざる、聞かざるを決め込んだのが運の尽き。知ってる自分と知らない自分が、(歌舞伎の見栄のように)あ、これこのとおり、ぱっくり分かれてしまうんだねえ。ま、早い話が、一つのカラダに一つのココロっていう人類五千年のジョーシキが崩壊しちまって、はた目には、一人の人間が、二人以上の、まったくちがう人格としてふるまっているように見えるのであります。
何はともあれお立ち会い。この珍獣を、四面ギヤマン、鏡の箱に入れますと、こいつはおのれの姿を見てビックリ仰天、タラーリ、タラーリと脂汗を流す。これをすき取り、トローリ、トローリと煮つめましたるがこのガマの油。ね、ガマの油って知ってた? 俺知らなかった。その効能は、ひびにあかぎれ、しもやけの妙薬。いぼ痔、はしり痔、はれもの一切。まだある。トラウマ、リスカ、ドメスティックバイオレーンス! ウソ。とにかく! なんと刃物の傷もぴたりと治す。(カッターナイフを抜き放つ)とり出したるは夏なお寒き氷の刃[やいば]!(紙を切るしぐさ)一枚の紙が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚、十六枚が三十二枚、三十二枚が、以下省略。あとは電卓でやってね。フウッと散らせば、一面の紙ふぶき!
ふぶいてないし。
ほっとけ。ようするに、この切れ味鋭い刃物の傷も、(と腕に刃を当てたところで止める)なあんてね。よい子の皆さん、まねしないでね。手首切ってももうからないよ、逆にお医者にとられるよ。だからオイラは(ナイフを捨ててリキの上に飛び乗る)手首切らずに、別の商売始めたわけだ。
さあ、買ってくれるかな。安い高いを言っちゃあいけない、売るのはこっち買うのはそっち、ダンナどうだい、買う?
何をって、オイラだよ。生きのいい、ピッチピチの男の子だよ! 正真正銘のノンケだよ。でもバックOKタチOK、コスプレSMお好み次第、スカトロだけはごめんあそばせ。ってわかる? 紳士淑女の皆様方。あ、そこの人、笑ったね? よし来た、買ったの一声だよ。今日はひとつおまけをつけちゃおう。一は万物の始まり、ウソは泥棒の始まり、一足す一は、二と来た。これくらいならオイラもまちがえないよ。一粒で二度おいしい、一人で二人の、お買い得。さあ、買った買った!
(あっさり立ち上がる)
わっ。(転げ落ちる)あっぶねーの。
一人でやってろ。
えー。
つきあってられない。
あーあ、人の苦労も知らないで。
(苦笑)苦労って。
は? 俺がお前のイヤなこと疲れること全部引き受けてるから、そうやっていい子ヅラしてられるんだろ。誰のおかげだよ。(間。ふっと笑う)忘れるなよ。俺は出たいときに出てやるからな。
やめろ。
そうやってブツブツ言ってるとまたクビになるよ? 不気味だって。
やめろ……
ハツ、浮かび上がる。
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登場人物紹介

リキ(力) 若い男。

タカ(高) 若い男。リキの「同居人」。

ゲン(源) 若くない男。タカの「客」。

ハツ(初) 若くない女。ゲンの妻。

ナツ(夏) 少女。

リキ&タカ(二人同時に)

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