第一幕第八場(5)

文字数 454文字

(今までのタカとは違う、哀しい声)

見て。見てよ。俺を。このおぞましい俺を。

俺だって、まさか。あんたが、ゲンさんの。そんなこと思いもしなかった。
でも、どうしてだろう。あんたに聞いてほしかった。俺の話。俺たちの話。
助けて。手遅れになる前に。
手遅れ……?

はじめ俺は、ただの声だったんだよ、リキの頭の中の。あるだろう、そういうこと。

たとえば朝になる。俺は言う、(リキに)起きろ。

起きたくない。
朝メシ。
いらない。
学校。
行きたくない。
いいから起きろ。顔を洗え。早く着替えろ。
(のろのろと言われたとおりの動作をする)母さんは。
もう出かけた。
カバンは。
ここにある。靴を履け。ドアを開けろ。行くぞ。
(のろのろと言われたとおりの動作をする)
あいつは歩くときも下ばっかり見てた。だから俺はずっと言い続けるしかなかった。顔を上げろ。前を見ろ。顔を上げろ。前を見ろ……おい、前を見ろ! 何やってんだお前、信号、赤だぞ?!
ブレーキ音。タカ、前に飛び出してリキをかばう。
前を見ろ……!
タカ、リキの顔を両手ではさみ、無理やり客席を向かせる。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

リキ(力) 若い男。

タカ(高) 若い男。リキの「同居人」。

ゲン(源) 若くない男。タカの「客」。

ハツ(初) 若くない女。ゲンの妻。

ナツ(夏) 少女。

リキ&タカ(二人同時に)

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色